hatsutoki books vol.23 [パイナツプリン]

2017.06.24

今回紹介するのは、吉本ばななのエッセイ[パイナツプリン]。『キッチン』で鮮烈にデビューしてから、作家として活動し続けてきた彼女の、初のエッセイ集。執筆した当時24才だった彼女の日常の出来事、友人や恋、作家について考えることについて。少女のようなあどけなさと、とてつもない落ち着きと冷静さを持ち合わせたエッセイは、まだどこか未完成でみずみずしさを感じます。

不安定な精神とデリケートな心を持ちながらも、家族や友人を愛し、やりたいことに前向きに取りくんで、人間らしく生きている。本当にいいなと思う。この言葉は、彼女が敬愛するスティーヴン・キングという小説家についてのエピソードから抜粋した、彼に対する思いを連ねた一節ですが、これはまさに、私自身が抱く彼女への印象。一人の作り手の、若き頃に考えていたことや目指していたものを知るのは、とても勇気をもらい、元気が出るものです。

また、この本で興味深かったのは、女性は「水分」が多くて変化が多いということについて書かれた部分。感情的な心の動きを、彼女は水の「揺れ」に例えていました。水が揺れるように、時に見ていてこわくなるような「瞬間美」のみずみずしさは女性の美しさなのだと。

これを読んで、「揺れ」はあっていいものなのだ、しょうがないのだ、とどこか救われた気分になり、それを以ってなお、たおやかにそれを乗り越えて、凛として毎日を過ごしていきたいなと思えるのでした。

近所の花 vol.6[ガクアジサイ]

2017.06.19

梅雨のはじまり、青い花が涼やかで見るとなんだか気持ちが落ち着きます。今日は道端で咲き始めた[ガクアジサイ]について。

小さい頃、ガクアジサイを見ては「いつ花が満開になるんだろう」と待ち続け、いつの間にか夏の訪れとともに枯れていってしまった記憶があります。私が思い描いていた「満開」のアジサイは、てまりのようなポンポンとしたホンアジサイだったのですが、実はガクアジサイを品種改良して、のちに生まれたものなのだそうです。

花びらのように見える部分は、萼(ガク)のかたちが変化したもの。花は萼の中心にある、小さいものを指すのだそうです。それでてっきり、萼からガクアジサイという名前がきたのかと思ったら、それも違うのだそうで。萼の部分が額縁に見えることから額アジサイというのだそうです。そこから別名を「額の花」ともいい、夏の季語として古くから人々に親しまれてきました。

「額の花こころばかりが旅にでて」 (森澄雄)

額の花を見ていると、気持ちだけが旅に出たいと急いていると詠われた句。湿気が高く、ぱっとしない梅雨の季節、それでもたしかに、この花を見るとどこか気持ちが晴れやかになって、どこかへ出かけに行きたくなりそうですね。

34°58’40.5″N 134°57’52.9″E

instagram #ガクアジサイ

hatsutoki books vol.22 [It’s beautiful here , isn’t it…]

2017.06.13

何でもない見過ごしていた風景が、どこかかけがえのない、特別で愛おしい物になってしまう。そんな魔法の様にも感じるイタリアの写真家、ルイジ・ギッリ(Luigi Ghirri)の作品集「It’s beautiful here , isn’t it…」をご紹介します。

ページをめくると、写真で映されているものは、どこにでもありそうな風景、誰も気にもとめていない物(古びた看板や、商店のショーウィンドウ、壁に生える蔦、無造作にテーブルに置かれた野菜……等々)なのです。しかし、それらの被写体はとても柔らかい光に包まれ、色彩にあふれ、精密に計算された構図、ウィットに富んだ暖かい目線で美しく切り撮られています。
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Luigi Ghirri_ルイジギッリ3

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タイトルは邦訳すると「ここは美しい場所でしょう…?」といった感じでしょうか。「ここ」とは、きっと自分が今いるこの場所や時代のことなのかもしれません。ギッリの写真を見ていると「ここ」はとてもかけがえのない場所で、美しく感じるかどうかはあなた次第……と教えてくれているような気がしてきます。

写真を愛し、写真に生涯を捧げた芸術家 ルイジ・ギッリは大きく時代を変えるような、特別な、革命的な何かを生み出したわけではないかもしれません。しかしいつ、どんな時代の誰が見ても、どこかほっとするユーモアに溢れ、記憶のなかの大切なものを思い出させてくれるような写真を淡々と、そして情熱的に撮り続けた写真家なのです。

hatsutoki books vol.21 [OPEN FRUIT IS GOD]

2017.06.01

今回ご紹介するのは、1989年生まれの東京出身の写真家・清水はるみさんの作品集[OPEN FRUIT IS GOD]。彼女曰く、この作品は”冷蔵庫に貼られたマグネットのたわいもない言葉遊びのように、主に自然の中で遭遇したセットアップのような光景をパーツとして集め、スケールの大小を問わず組み合わせたもの”だそうで、その比喩がしっくりと来てしまう、物腰軽やかで少しふしぎなニュアンスを持った写真です。

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これを見ていると「違和感」は、時に一種のうつくしさや、人を惹きつける何かなのだと思えました。私たちは日常の節々で、ほとんど無意識的に人と人との関係性や、ものとの関係性、環境の文脈を読み解こうとします。「少しわかる、だけど分かりきらない」というのは、ちょっとしたことでもとても気になってしまうもの。

独特の質感や組み合わせを捉える視線はシャープでみずみずしくて、それでいて女性らしいやさしさをも感じます。日常の中にある違和感を見逃さず、それらをを再編集することで、散文的でありながらどこか心に引っかかる作品です。

instagram #hatsutokibooks

採集について

2017.05.18

連休の数日、瀬戸内海へ足を伸ばして、ある島の海岸に行ってきました。海の水はまだ冷たくて、とてもではないけれど泳ぐことができず、海辺を散歩することに。小さい頃は、何時間も砂浜で貝殻を探すことに夢中だったな……と思いながら足元を見ていたのですが、ふと、きらきらとした貝殻の隣で打ち上げられた海藻が目に入りました。

水気を含んで、ぬるぬるしていて、手の上に長いこと持っていられるものでは正直なかったのですが、どのくらいの種類の海藻がこの海岸には打ち上がっているのか、ふとなぜか気になってしまい、集めてみることにしました。

歩いては落ちている藻を拾う。それを繰り返すうちに、海藻の水分がなくなってしまうことをおそれて、それを運ぶ容れ物を探すようになりました。さっきまではただのゴミだったペットボトルが途端にとても貴重に感じ、無心に拾い始め、海水で満たしては藻を入れていきました。

集めた海藻を眺めると、やっぱり海の生き物なのだなあと実感。その時集めた海藻は、たまたま全ての葉っぱが風船のように空気を含むような構造をしていました。漂流して、繁殖するためなのかなと思いましたが、それでも種類によってその工夫の仕方は様々で、それもまた不思議です。自然が与えた、全てのかたちには意味があるんだなあとふと実感したときでした。

春から初夏へ

2017.04.30

綺麗なミモザが街中に咲いていて、忘れない様に写真におさめておこうと、10日ほど前に思いたちました。4月中頃までの景色でしょうか。なにしろこの季節は草花や山の色、街の景色の移り変わりがとても早いのです。

山は4月の雨が上がり暖かい日が訪れると一斉に新芽を吹き、若葉色に染まります。この瞬間、春が来たまさにその瞬間はとても感動的で、自然の力強さをひしひしと感じます。花は、桜、たんぽぽ、ミモザ、モッコウバラ、オオデマリと次々に咲いては散り、また咲きます。毎日通る道が、日々変化して新しい気付きや感動を与えてくれるのです。

ここ半年ほどのことなのですが、花や草木の名前を覚える楽しさを知りました。名前を知ることで、見過ごしていた物が、見過ごせない物になっていることに気がつきました。それはつまり、世界を縦に広げること、たとえ小さい街で暮らし、日々同じ道を通っていたとしても、見ている世界の深さが変わることだったのです。

近所の花 vol.5 [コセンダングサ]

2017.02.22

コセンダングサは夏の終わりから秋にかけては、黄色い花を咲かせます。機屋さんに向かう道の途中、砂利道の隅で咲いていたのを見つけ、種をつけた冬の姿もとても可愛いと思いました。

種子は鋭い銛のようなものがくっついており、動物に付着して運ばれていくのに適したすがたをしています。なんで動物に運ばれることを前提として、こんなかたちをして生まれてこれたんだろうかと、考えてみると不思議。風で運ばれるもの、水に運ばれるもの、鳥に食べられて運ばれるものなど、植物にはいろんな繁殖の方法がありますが、当たり前だけどヒトにはそんな能力はありません。

ついつい、「人間だからできること」というのを考えてしまいがちですが、私たちには到底なしえないことを、植物は生き延びていくためにひっそりと力強く成して、環境に合わせた生き方をしていました。

35°00’49.9″N 134°53’36.1″E

instagram #コセンダングサ

想像の想像

2017.02.07

料理をつくるのが好きで、今までに試したことのない組み合わせを思いつくと一体どんな味がするのだろうと、どうしても作って見たくなります。料理は当然、味を想像しながら素材の組み合わせを決めたり、調理の工程を考えたりしますが、そこでふと「味の想像」っていったい何なんだろう、と疑問が湧いてきました。想像の中の味は一体どうやって想像しているのか?と考えれば考えるほど難しいのですが、逆に全く想像も出来ない味は何かというと、今までに食べたことのないものだとわかりました。

つまり、想像の正体は「記憶」や「経験」に近いものなのかもしれません。ではこの文章を読んでくれている方は、心の中でどんな「声で」読んでくれているのでしょう。私の声を聞いた事がある人はその声で読んでくれているのでしょうか。そうでない人は?何かしらの声がしていることは間違いないと思うのですが、記憶にないその音はモヤモヤ霧に隠れているようで想像が難しいのではないでしょうか。

しかしここでもう一つ疑問が湧いてきてしまいました。子供の想像力はいったいどこからやってくるのでしょうか。まだ記憶や経験が少ないはずの子供のあの溢れ出るような想像力はなぜ大人になるにつれ、なくなってしまうのでしょうか。ピカソは晩年に「やっと子供のような絵が描けるようになった」と言いました。大人になるに連れ、きっと理性が想像の邪魔をするようになるのではないでしょうか。想像するまでもなく”わかって”してしまうのです。パターンを”わかって”しまえばとても効率が良く、合理的に思えるかもしれません。殆どの事をパターン化してしまえば、悩むこともなく人生は最小限のエネルギーで済み経済的な豊かさを得ることが出来るかもしれません。

でもやはり、想像することは、人が人であるためのとても大切で尊いおこないのような気がしてなりません。想像はいつもそこにない何かを思い浮かべることであるはずです。そこに足りないもの、そこに必要なもの、そこにあったら世界がより良くなるもの。想像せずに見過ごすことは簡単かもしれませんが、想像のなかの広い広い世界を自由に行き来することもまた豊かな人生な気がします。デザインはそのほとんどが想像でなりたっています。そこに足りない何かを想像して穴を埋める作業です。しかも埋めるだけでなく、そこに花を植えることもまたデザインです。私自身のデザインも誰かの事を思いやり、誰かの想像をまた豊かにして、世の中の役に立つものでありたいなぁとおもいます。

 

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近所の花 vol.4 [ナンテン]

2017.02.04

クリスマスやお正月、冬のお祝いごとにしぜんと寄り添っている植物、ナンテン。「難を転じて福となす」という言葉と通ずるため、古くより縁起の良い植物として親しまれてきました。江戸時代にはどこの家にもナンテンが火災よけとして植えられ、さらには魔よけとして玄関前にも植えられるようになり、この慣わしは今も日本の各地でのこっています。

植物が赤い色の果実をつけるのは、色彩に敏感な鳥が認識しやすいためだといわれています。 しかし、ナンテンの実にはほんのすこし毒があるのだそうです。それは、毒を持たないおいしい果実を付けると、鳥はそこに長い時間とどまって、果実を食べ尽くしてしまうからだとか。すこし食べてはほかの場所に移動し、ちがう食べ物を探す。そうして、鳥が食べ物を探しに渡り飛ぶ習性にしたがい、種子が母樹から離れた場所に散布されていくのです。

35°00’41.7″N 134°53’56.4″E 

instagram #ナンテン

hatsutoki books vol.18 [ノーザンライツ]

2017.01.26

ぐっと冷え込む一月の終わり。西脇ではこの冬、二度雪が積もりました。寒い土地にまつわるものにしようと思い、今回はこの一冊。星野道夫さんの作品に初めて触れたのは、小学生時代の教科書でした。深く記憶にのこっているのは、水しぶきを上げながら河を渡る、カリブーの群れの写真。こんなに臨場感をもって、生き物を身近に感じられる世界があるのかと、その自然の力強さ、美しさが印象的でした。

それから少し時が経ち、あらためて星野さんの本を読むきっかけになったのは二十歳のとき。大学の先生はかつて星野さんを担当していた編集者の方でした。「彼と本を作るなかで、こんなやりとりがあったんだ」とたまに先生の口からふとこぼれると、急に星野道夫という人にリアリティを感じるようになったのでした。『本当に、同じ時を生きていた人なんだ』と。

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「カリブーの群れの足音を、何時間も聞いていた」と記されたのを読むと、どんな勢いを彼は肌で感じていたのだろうと、大地を駆け巡るカリブーの写真を見て想像してしまいます。この本は、アラスカの大自然で暮らす人たちの伝統や精神性、現代への生活スタイルの変化など、アラスカの土地に根ざした事柄がひとつ一つ彼の言葉で紡がれたもの。自然と折り合いをつけながら生きていこうとする人々の姿を真摯な眼差しで見つめ続けた随筆集です。文庫でありながら、カラーの写真も沢山載っているので、見て読んで楽しめる一冊!

instagram #hatsutokibooks