播州織ができるまで⑧ -畦取りのしごとについて-

2016.08.09

前回に引き続き、畦取りについてのお話です。この道38年の職人さんの手は畦を取るかたちを保ったまま、指が大きく広がらないのだそう。一本ずつ糸をすくっていくと聞いただけでも気が遠くなるように感じますが、100番単糸などの極細糸だとなおのこと難しそうに思えます。そんな考えとは裏腹に「細い糸ほど、やりやすいのよ」と職人さんは話していました。

作業の上で大切な仕事道具の一つは、爪だと言います。眠るときは手入れした爪が折れないよう、下の写真のように親指を覆うように握って寝る癖が付いているのだとか。仕事場の足元には、爪切りやヤスリも置かれていました。この爪を使って糸を拾っては、色順をひたすら整えていきます。

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仕事に合わせて、からだの一部も順応させたり、変わることに仕事への真摯な姿勢をあらためて感じました。仕事や習慣というものは日々の生活の中で、その人自身に変化を与えていくものなのだということを実感。

播州織ができるまで⑦ -畦取りについて-

2016.07.28

今回は、畦取りについてのお話。経糸をビーム染色した場合、企画した柄通りに糸を並べ直す作業が必要となります。機械で行うこともできますが、柄の大きさや糸の色数が複雑なものは人の手によって、一本一本並べ替えられます。田畑の境界線を示す「畦」という言葉から、色ごとに区別して柄組みする工程のことを「畦取り」といいます。

うかがったのは、この道38年の職人さんの仕事場。そこには、巻かれたビームがずらりと並んでいました。朝から晩まで、糸をひたすら指ですくい続けているのだそうです。

デザインの指図書をもとに、職人さんは糸の並び順を自分で紙に書き出していきます。本数を書き、色鉛筆で区別した表は作業の際に張り出され、一本ずつ数えながら作業します。

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馴染みの機屋さん曰く、職人さんは一本たりとも狂いなく、いつも確実に柄を組んでくれるのだといいます。数え間違えていそうだと思えば、数千本もの糸を始めから順番に数え直すことは何度もあるのだそう。先染織物の産地で生まれるうつくしい模様の生地は、この気が遠くなるような作業があってこそ作られていました。

播州織ができるまで⑥ -ビーム染色について-

2016.07.23

以前、染色時の糸の状態は綛(かせ)、チーズ、ビームの3つに分かれるというお話をしました。今回はビームでの染色について、少し工程を戻って紹介します。

ビームを使って染色するのは大量の経糸を必要とする、長い生地を織る場合。上の写真は染色のときに使うビームの側面で、ここに糸を巻き付けて染色します。筒状になっており、側面は穴が開いているので外側からだけでなく、内側からも染液がしみて糸がきれいに染まるのです。

 

ビーム染色した経糸

 

ビーム染色が大ロット向きの染色方法というのに対して、チーズ染色は中ロット向き。ビームの状態で染めた糸はこのまま経糸の準備工程に進むため、経糸にしか使われないのもチーズ染色とちがうところです。(経糸がビーム染色の場合でも、緯糸はチーズ染色で染め上げます。)そして、ビーム染色にしかない点がもう一工程。次回は[畦取り]という作業についてお話しします。

播州織ができるまで⑤ -サイジングについて-

2016.07.15

前回に引き続き、織物の経糸を準備する作業について。今回は[サイジング]という工程をお話しします。

サイジングは経糸に糊を付けることで織りやすくする工程です。播州地方の先染織物では、一般的に経糸に糊をつけ、緯糸にはつけないことが多いです。それは、経糸が緯糸に比べ、織っている最中で受けるストレスが大きいことが関係しています。

実際に生地を織るとき、経糸はピンと張られた状態になります。さらに、経糸を上下に動かすことで緯糸を入れ織り上げていくとき、隣り合う経糸同士がこすれ合ってしまうのです。そのため経糸には糊を付けて、引っ張る力に耐えられるよう強度を補強したり、こすれによる毛羽立ちを防いだりする必要があるのです。

特殊な糸を扱うときを除き、大抵は何千本もの糸を一斉に糊付けします。上の写真はまさに、これからサイジングが行われる入口部分で、奥へと糸が送られているところ。

糊がついた状態の経糸

糊がついた状態の糸は、パリッとした触り心地。hatsutokiがよく使う100番単糸という極細の綿糸も糊の成分や濃度、糸の張り具合などが細かに調整されることで、ようやっと織れる状態になります。

播州織ができるまで④ -整経について-

2016.07.07

染まった糸の緯糸は機屋さんへ、経糸は織る準備をするために整経工場に送られます。経糸準備は「整経」と「糊つけ(サイジング)」の二工程に分けることができます。

整経とは文字通り、数千本もの経糸を一本ずつ整える作業。上の写真のように、糸の長さを揃えて「ビーム」という円柱状のものに巻きつけていきます。

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<ストライプ柄の経糸>

ストライプ柄やチェック柄など経糸に複数の色を使う場合は、デザインどおりに経糸を並べることも整経作業の中で行います。

これで、織り上げるのに必要な経糸が準備完了、と言いたいところですがもう一工程。次回は経糸を頑丈にするための「糊付け」の工程についてお話します。

播州織ができるまで③ -染料について-

2016.06.29

繊維を染める染料は大きく分けて二種類で、藍染めや泥染めなど自然由来の天然染料と、石油をはじめ化学的に合成された合成染料があります。合成染料のなかでも、綿織物の産地である西脇は「反応染料」という染料を用いて綿糸を染めています。この染色方法は堅牢度がよく、色が鮮明であるのが特徴です。

写真は、様々な濃度の染料が入ったビーカー。基本的な染料はたった数種類なのですが、それぞれを抽出し混ぜ合わせる割合を微調整して、出したい色を作ります。

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近い色合いでも、その幅は無限。工場内にはすごい量の糸の色見本がずらりと揃っています。微妙な色味も、染料のデータをしっかりと取ることでいつでもまた同じ色を再現できます。ブランドが通年を通して安定したクオリティの商品を作り出せる裏側には、染色のこまやかな仕事がなくてはならないのです。

播州織ができるまで②-糸について-

2016.06.21

今回は、染める「糸」について。前回お話ししたように、hatsutokiの生地が生まれる播州は先染めの手法が特徴のひとつです。染色時の糸の状態は3つに分けることができ、それぞれ綛(かせ)、チーズ、ビームと呼ばれています。上の写真は、ナチュラル・チーズの固まりのような形をしていることから「チーズ」といわれています。

播州では糸を紡績会社から調達して、織物を作っています。仕入れた原糸も同じようなロール状なのですが、染色するときのチーズとはちょっとした違いがあります。ひとつは芯。原糸の芯は紙製や木製のものですが、染色のために巻き直されたチーズは、芯がステンレス製で表面に多数の穴が空いていたり、メッシュ状になっていたりします。これは、ロールの内側から染液に染み込ませるためです。(写真の右側は染色のために巻かれたもので、左は染色後の糸が紙製の芯に巻き直されたものです。)

もうひとつの違いは、チーズの上部分。染色のためのチーズは、少し肩が落ちたように丸みを帯びた円柱になっています。これは糸の重なり具合によって染めむらを生じさせないためで、このかたちにする工程を「肩おとし」と呼んでいます。前回の写真は、チーズが今まさに染色の釜へ入っていくようす。この手法で、まとまった量の糸を染め上げることができるのです。

播州織ができるまで①-糸の染めについて-

2016.06.15

hatsutokiは、播州織の産地として有名な兵庫県西脇市を拠点に服作りをしています。写真は、織物に使われる糸を染める染色工場。染色の工程において大切な水は、播州を流れる川からめぐまれています。播州織は、糸を染めてから織る「先染め」の手法を用いているのが特徴のひとつです。糸の中心まで染め、仕上げには何度も洗いを繰り返すことで、織り上がった生地は色が深く、色落ちもしづらくなります。

糸に負荷を与えず、均質な色合いで染め上げるのはとても難しいのだそうです。hatsutokiでも定番のコットン100番単糸という極細の糸はとくに繊細なので、染色段階で糸にダメージを与えないようにする技術がよりいっそう求められます。織る段階になって生地に不具合が生じた際でも、そもそも染めに原因があるかもしれないと、ときには染めの職人さんが織りの工場に駆けつけることもあるといいます。

播州の地域では染めや織りなど、生地が織り上がるまでの作業が分業で行われています。それぞれの職人さんが各工程を見通して仕事を仕上げることで、初めて品質の高い織物が生まれるのです。これから数回にわたって、播州の地区において、どのように糸が生地に仕上がっていくのかをあらためて紹介していこうと思います。次回は引き続き、染色の現場で行われている仕事についてお話ししていきます。

水面のゆらぎのような ”影織り”

2016.04.18

巧妙に浮かびあがる波模様。hatsutokiが今シーズン商品化した”影織”(カゲオリ)について。

熟練の職人の連携から生まれる糸、染め、織り、その中でも工場によって特徴は様々です。特殊な装置で陰影をつくりだした”影織”は、昔からある技術を新鮮な目で見つめ、何度も工場に通い実験を繰り返し誕生しました。水面のゆらぎのような見たこともない表情と不思議な色の交わり、光に透かした時の陰影が美しい生地です。これは、繊細な糸の密度によって柄をつくり出しています。洋服という枠にとどまらない、不思議な素材。

「色」は、染めだけでなく、光や重なりによって混ざり合い姿を現します。自分たちの色をこれからも追求していきます。

 

SHADOWオーバードレス(ネイビー)

 

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播州織について③-MADE IN JAPANのクオリティ-

2016.03.27

播州織について②では播州織「産地」の特徴や構造、産地の特性(長所・短所)ついて書きました。
http://hatsutoki.com/blog/189/about_banshu-ori_2/

播州織について③では、日本製の技術がすごい、とよく耳にすると思いますが一体何がハイクオリティなのか?といったことを、実際に私達が普段播州産地で見聞きし、感動した体験を例にしつつ、具体的にお伝えしようと思います。

まず、ハイクオリティ(高品質)な織物とはどんなものなのか、という点について先に少し考えてみます。(ここではとりあえずクオリティ=品質というとし、色や柄、デザイン性は抜きにます)織物はタテ方向に数千本もの糸を綺麗に整列させ、ヨコ方向の糸を一本づつ差し込んで行くことで、はじめて布となります(※上の写真はタテ糸を数千本、整列させ、織り機にに乗せているところです。デザインされた柄通りに糸を並べる作業は今でも一本一本、手作業がほとんどです)。1反(通常50m)の布を、美しく織り上げる作業というのは、数千本の糸を50mの間、絡まらせることもなく、傷つけることもなく扱い、ヨコ糸を数万回、数十万回と差し込んで行く作業を一度も間違いなくこなす作業なのです。例えば、ふわふわと舞う埃が糸の上に落ち、生地の中に打ち込まれてしまう事を「飛び込み」といい不良と言われてしまいます。タテ糸が2本同時に切れ、テレコに結んでしまうと、柄や組織が崩れタテに筋が入ったような傷が出来てしまいます。私は50mの織物が傷一つなく美しく織られるということがどういうことなのかが分かったとき、とても感動したことを覚えています。

それでは更に前の工程、糸を染める染色の高品質とはなんでしょうか。播州織は先染めの産地なので、糸を染める工程はとても重要な工程の一つです。逆に質の悪い染色の代表例は色落ちです。洗濯をしたときに色が落ちて他の物についてしまった、というのを誰しも一度は経験しているのではないでしょうか。西脇で染められた物は殆どの場合、そんなことにはなりません。西脇の水質とも関係しているのですが、重要なのは染めた後、何度も何度も水を通し、染まりついていない染料を徹底的に洗い流す工程です。よく「イタリアの布は発色が良い」という話を耳にしますが、これは染まりついていない染料を落としきっていないから、とも言われています。海外の布はよく色落ちすると言われるのもこのためです(数値で検証しているわけではないので一概には言えませんが)。染め上げた後、洗いを繰り返しこれ以上は色落ちしないという基準を厳しく定めているため、発色はピークから少し落ちたところに最終収まるのです。

染色についてもう一つ驚いたのは「色の出し方」です。色は混ぜれば混ぜるほどくすんで行き、黒に近づいていく性質があるのですが、染色の染料も同じです。染料を混ぜて、イメージに近い色を出すのですが、混ぜるほど発色は落ちます。つまり発色という点のみを追求するのであれば染料メーカーの色を単色で使うのが一番よい発色になるのですが、その場合デメリットがあります。もしその色が廃盤になった場合、二度と同じ色を出せなくなってしまうのです。なので染色工場は染料を必ず混ぜて使います。単色に近い場合でも、少し他の色を混ぜるのです。そうすることで、もしある色番が廃盤になっても違う色との混合で再び色を再現できるという工夫をしているのです。

上記はほんの一例ですが播州織の高品質を維持する為の工夫は沢山あります。hatsutokiの織物はその中でも更に特別です。100番単糸という極細の綿糸を使用しているので、糸の扱いに関しては、各工程で更に工夫と丁寧な仕事が必要なのです。例えば織りの前工程で糊付け(サイジング)と呼ばれる工程があります。糸を織りやすくするために糊を付け、補強する工程なのですが、100番単糸を織り上げるためにはこの工程がとても重要です。糊の調合、付ける量のコントロールが完璧でなければ、糸が切れてしまい織れません。この糊付けが出来るのは播州で一軒のみと言われているのですが、糊付け屋さん曰く「ただ強くガチガチに固めるだけでは駄目。程よく粘りをもたせ、柔軟な糊付けをすることで糸が切れなくなる。また最も重要な事は、すべての工程を丁寧に行うこと」だそうです。そしてこの糊をつけた後の糸を織り工程の機屋さんに運ぶのですが、この運ぶ際の”トラックの運転が荒”いと、糸が切れて駄目になります。ゆっくり丁寧に運転し、糸を運ばなければならないのです。

これ以外にも、様々な工程で沢山の人の手を通り、織物は出来上がります。誰かが手を抜いたり、下手な仕事をすると、織物の品質は下がります。またそれ以外に環境もとても重要な要素です。綺麗な水がなければ綺麗な染は出来ません。美しい自然から生まれる美しい色。これもアジアに負けない日本の品質を支える重要な要素の一つなのです。

ある一つの工程を見ただけでもこれだけ多くの工夫があることがわかります。これは代々受け継いでいる技術と経験、知識、そして柔軟な現場でのアイデアと知恵が、播州織のクオリティを支えているのです。

③では播州織のクオリティ(品質面)について、私達が実際に見聞きして感動した事を書きました。④では、技術の更に次の段階。つまり意匠性や付加価値をどう生み出すのかという点で、「播州織の今とこれから」という切り口でお話します。

 

過去の記事

播州織について①-播州織と西脇-

播州織について②-播州織産地の特徴-

 

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