hatsutoki books vol. 12 [地球の上に生きる]

2016.08.21

今回紹介するのは、アリシア・ベイ=ローレルの[地球の上に生きる]。彼女が、1960年代後半にウィラーズ・ランチで暮らした20代の実体験をもとに綴られています。住居の作り方や野外での調理法、せっけんの作り方や薬草の利用の仕方(さらには自分でするお産まで!)あらゆる人の生活に関わるテーマについて、漂うような絵と文章で書かれている一冊。

この本が長く読み継がれているのは、自然とともに暮らすことへあこがれる気持ちや、今や知らないことばかりとなった環境への脅威が私たちの中にあるからなのだろうと思います。その一方で「意外と、飲み水って手に入れられるのかも」と安心する心地もおぼえたり。

この本に載っている内容をし尽くすということは容易くありませんが、一つずつ実践してみるということはできそうです。身近なところでいえば、果実酢の作り方というのを読んで、まずやってみようと思いました。そして、ついつい夢みてしまったのは可動式の住居。車や船の上で住んで生活するというのはとても身軽で、たくましくて、いろんな景色を見られそう。かつては移住の習慣が深く人々に根付いていたように、それは人生で一度経験したい感覚です。

_tatsuyama

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イメージの発見と記憶

2016.08.21

アイデアの素を探すときはいつも気になったものを写真に撮ったり、過去に撮った写真を掘り返したりすることから始まります。カメラという道具は本当に不思議なもので、僕にとって目のようで手のようでもあります。何か被写体を写した瞬間に、もうイメージが形になって吐き出されるされている。イメージの発見から創作までが一瞬にして行われてしまうのです。

何か思いついた事を形にするには多くの場合創作のプロセスの時間が入ります。それは絵でも服でも建築でも音楽でもそうだと思うのですが、僕にとって写真は何しろ早いのです。写真を沢山撮ることはインプットとアウトプットの連続です。発見と出力を繰り返すことで、アイデアを形にする癖の様なものを付けるトレーニングになっているのかもしれません。世界を平面に置き換えられるところも興味深いところです。見ている景色を写真におさめて一旦平面にするプロセスは、その後、平面の布に世界観を反映させる作業をスムーズにもしてくれます。

ふとした瞬間に訪れる些細な感動や美しい光を感じ、シャッターを切る。発見と創作が瞬時に行われることで、脳の中にもより強いイメージとして記憶が残ります。そのイメージのストックこそがアイデアの素となるのだと思います。また逆に、日常にどれだけ美しい瞬間が多いかを気づかせてくれる装置でもあるのかもしれません。

_murata

hatsutoki books vol.11 [DOLCE VIA]

2016.08.14

今回紹介するのはCharles H.Traubの[DOLCE VIA -ITALY IN THE 1980s-]。彼はアメリカ生まれのストリートスナップを撮り続けている写真家で、1980年代、頻繁にイタリアを訪れてはローマやナポリ、ベニスやミランの街中を写したものがおさめられています。

海の青さも、人々が纏うビビッドな色の服も、街の中に溶け込む石像や石壁の白さも、生き生きとして目に映るのが印象的。日差しの強さが伝わってくるような鮮やかな色彩が、日本から離れた風土だということを感じさせます。

異国の地を訪れた者ならではのみずみずしい切り取り方で、人々の生活が映されているのは、眺めているだけで旅行をしているような気分。土地の陽気なのか、時代なのか、希望と憂いがどちらも色濃く映ったようなイタリアの人たちの暮らしは素朴で、チャーミングで開放的なのです。その雰囲気や空気に、なぜか懐かしさも感じてしまう一冊。

_tatsuyama

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播州織ができるまで⑧ -畦取りのしごとについて-

2016.08.09

前回に引き続き、畦取りについてのお話です。この道38年の職人さんの手は畦を取るかたちを保ったまま、指が大きく広がらないのだそう。一本ずつ糸をすくっていくと聞いただけでも気が遠くなるように感じますが、100番単糸などの極細糸だとなおのこと難しそうに思えます。そんな考えとは裏腹に「細い糸ほど、やりやすいのよ」と職人さんは話していました。

作業の上で大切な仕事道具の一つは、爪だと言います。眠るときは手入れした爪が折れないよう、下の写真のように親指を覆うように握って寝る癖が付いているのだとか。仕事場の足元には、爪切りやヤスリも置かれていました。この爪を使って糸を拾っては、色順をひたすら整えていきます。

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仕事に合わせて、からだの一部も順応させたり、変わることに仕事への真摯な姿勢をあらためて感じました。仕事や習慣というものは日々の生活の中で、その人自身に変化を与えていくものなのだということを実感。

hatsutoki books vol.10 [安東陽子|テキスタイル・空間・建築]

2016.07.31

今回紹介するのは、テキスタイルデザイナー安東陽子さんの作品集。テキスタイルと建築の関係について書かれた本というのはめずらしく、空間の中でうつくしく見える生地に焦点が合った写真は新鮮です。

建築というと、重たさや硬質な感じを覚えがちですが、空間にテキスタイルの質感を足すことで、「軽やかさ」や「透明感」を生み、その場所の空気のようなものを可視化できるのだな、と彼女の作品を見て思えました。一人ひとり身体の特徴が違うように、建築も環境や素材によって全く姿がちがうもの。「一番肌に近い建築」として、建物が服をまとうように考え抜かれた作品の明確さやシンプルさに、きっと使い手も心地よさを覚えるだろうなと感じます。

安東さんを初めて知ったのは、あるトークイベントに出演されていたとき。凛とした、しなやかさのある作品の空気とご本人はそのまま重なり、感激した勢いにのって、イベント終了後無心で駆けつけて声をかけてしまいました。数年経った今でも、本を眺めるたびにその瞬間を思い出してしまう一冊。

_tatsuyama

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播州織ができるまで⑦ -畦取りについて-

2016.07.28

今回は、畦取りについてのお話。経糸をビーム染色した場合、企画した柄通りに糸を並べ直す作業が必要となります。機械で行うこともできますが、柄の大きさや糸の色数が複雑なものは人の手によって、一本一本並べ替えられます。田畑の境界線を示す「畦」という言葉から、色ごとに区別して柄組みする工程のことを「畦取り」といいます。

うかがったのは、この道38年の職人さんの仕事場。そこには、巻かれたビームがずらりと並んでいました。朝から晩まで、糸をひたすら指ですくい続けているのだそうです。

デザインの指図書をもとに、職人さんは糸の並び順を自分で紙に書き出していきます。本数を書き、色鉛筆で区別した表は作業の際に張り出され、一本ずつ数えながら作業します。

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馴染みの機屋さん曰く、職人さんは一本たりとも狂いなく、いつも確実に柄を組んでくれるのだといいます。数え間違えていそうだと思えば、数千本もの糸を始めから順番に数え直すことは何度もあるのだそう。先染織物の産地で生まれるうつくしい模様の生地は、この気が遠くなるような作業があってこそ作られていました。

hatsutoki books vol.9 [山の音]

2016.07.24

今回紹介するのは、川端康成の[山の音]。山というモチーフが、山の景色が四方眺められる西脇にぴったりかなと思ったのですが、読み返すと『八月の十日前』からこの小説は始まっており、ちょうど今頃の季節だったのでなおのことでした。

主人公の尾形信吾は60才をこえ、妻、長男、そしてその長男の嫁と鎌倉で暮らしているところから物語は始まります。実は誰もが何かしらの問題を抱えており、家族という近しい存在がわかり合えないことの哀しさに直面していく話。そのかたわらで、穏やかに移りゆく鎌倉の季節が美しく描かれた作品です。

これを読んだとき印象的だったのは、日本人特有の繊細さのようなもの。たとえば、家族に対する遠慮や優しさ、気遣いや諦め、ある種の達観のようなものも含んでいるのですが、家族とのやりとりのなかで、その慎ましい感覚がとてもいい面として描かれていたように感じました。

そして自然の描写の細やかさが、はっとするほど美しい。舞台となった鎌倉は、作者自身も終生を過ごした土地でした。小説のなかで信吾はしきりに、自分の命が限りあるものであることに思いふける場面があるのですが、その心境と重なって、日々目に映る風景の美しさが一瞬のもので、自分も常に年を重ね、移り変わっているのだということをふと思い出させてくれます。

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播州織ができるまで⑥ -ビーム染色について-

2016.07.23

以前、染色時の糸の状態は綛(かせ)、チーズ、ビームの3つに分かれるというお話をしました。今回はビームでの染色について、少し工程を戻って紹介します。

ビームを使って染色するのは大量の経糸を必要とする、長い生地を織る場合。上の写真は染色のときに使うビームの側面で、ここに糸を巻き付けて染色します。筒状になっており、側面は穴が開いているので外側からだけでなく、内側からも染液がしみて糸がきれいに染まるのです。

 

ビーム染色した経糸

 

ビーム染色が大ロット向きの染色方法というのに対して、チーズ染色は中ロット向き。ビームの状態で染めた糸はこのまま経糸の準備工程に進むため、経糸にしか使われないのもチーズ染色とちがうところです。(経糸がビーム染色の場合でも、緯糸はチーズ染色で染め上げます。)そして、ビーム染色にしかない点がもう一工程。次回は[畦取り]という作業についてお話しします。

青垣

2016.07.18

西脇の街を囲う美しい山々の景色を言い表す言葉を見つけました。青垣「あおがき」は周囲を囲う山々が連なって青い垣に見立てた様子を表す言葉だそうです。垣は、垣根など家を隔てるものの他に、間や心を隔てる意味もありますが、街を隔てる山にも使われたのですね。

山は実際には青でなく緑ですが、青と緑の認識の境界は曖昧で、「青々とした葉っぱ」という言い方もあるので、青垣と言われてもあまり違和感は感じません。むしろ青と言われたら、記憶の中にある山々の風景は青だったような気がしてくるから不思議です。日本人の独特な感覚かもしれませんね。

言葉を知ることで山々を「街を隔てる垣」だと新しい認識を得ることが出来たのですが、日常の風景が変わって見える体験はいくつになっても新鮮です。物事は、それを言い表す言葉を知らなければ認識することが出来ません。知ることで意識がそこに向き初めて認識できるようになります。たとえばある花の名前を知ることで、今まで雑草だと思っていたものが雑草ではなくなるのです。知ることで自分の世界が広がっていく経験はとても貴重で刺激的です。年を重ねても知識を吸収することを止めずに、今見ている景色とは全く違う広大な世界を見てみたいものです。

_murata

hatsutoki books vol.8 [synonym]

2016.07.17

今回紹介するのは[synonym]というアメリカで作られた冊子。hatsutokiをお取り扱い頂いているBarnshelfにて遭遇した一冊です。(日本で手に入るのは、ここだけなのだそう!)

Leigh Pattersonというテキサスの編集者によって創刊されたもので、アートやデザイン、写真、食など多分野の要素を特定のテーマに落とし込んで、独自のセンスで編集されています。(今号のテーマは「機能美」「観測」)。規模や創刊ペースなど、この冊子について詳細は分からないことが多く、300部限定というのもあり、いろんな意味で貴重なのかもしれません。

ページをめくると、身近なものや日常の風景でありながら、非日常を感じる写真の数々に思わずどきっとしてしまいます。無機質でありながら、少し色気があったり。「それもアリなんだ」と、考え方のネジが一つとれるような感触を覚え、お店の中でつい見入ってしまっていました。テキストも短いので英文もすっきりと読みやすく、何よりもページがきれいなのでふとパラパラ眺めたり、壁に飾ったり、自由に手に取って楽しめる一冊です。

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