hatsutoki books vol.10 [安東陽子|テキスタイル・空間・建築]

2016.07.31

今回紹介するのは、テキスタイルデザイナー安東陽子さんの作品集。テキスタイルと建築の関係について書かれた本というのはめずらしく、空間の中でうつくしく見える生地に焦点が合った写真は新鮮です。

建築というと、重たさや硬質な感じを覚えがちですが、空間にテキスタイルの質感を足すことで、「軽やかさ」や「透明感」を生み、その場所の空気のようなものを可視化できるのだな、と彼女の作品を見て思えました。一人ひとり身体の特徴が違うように、建築も環境や素材によって全く姿がちがうもの。「一番肌に近い建築」として、建物が服をまとうように考え抜かれた作品の明確さやシンプルさに、きっと使い手も心地よさを覚えるだろうなと感じます。

安東さんを初めて知ったのは、あるトークイベントに出演されていたとき。凛とした、しなやかさのある作品の空気とご本人はそのまま重なり、感激した勢いにのって、イベント終了後無心で駆けつけて声をかけてしまいました。数年経った今でも、本を眺めるたびにその瞬間を思い出してしまう一冊。

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播州織ができるまで⑦ -畦取りについて-

2016.07.28

今回は、畦取りについてのお話。経糸をビーム染色した場合、企画した柄通りに糸を並べ直す作業が必要となります。機械で行うこともできますが、柄の大きさや糸の色数が複雑なものは人の手によって、一本一本並べ替えられます。田畑の境界線を示す「畦」という言葉から、色ごとに区別して柄組みする工程のことを「畦取り」といいます。

うかがったのは、この道38年の職人さんの仕事場。そこには、巻かれたビームがずらりと並んでいました。朝から晩まで、糸をひたすら指ですくい続けているのだそうです。

デザインの指図書をもとに、職人さんは糸の並び順を自分で紙に書き出していきます。本数を書き、色鉛筆で区別した表は作業の際に張り出され、一本ずつ数えながら作業します。

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馴染みの機屋さん曰く、職人さんは一本たりとも狂いなく、いつも確実に柄を組んでくれるのだといいます。数え間違えていそうだと思えば、数千本もの糸を始めから順番に数え直すことは何度もあるのだそう。先染織物の産地で生まれるうつくしい模様の生地は、この気が遠くなるような作業があってこそ作られていました。

hatsutoki books vol.9 [山の音]

2016.07.24

今回紹介するのは、川端康成の[山の音]。山というモチーフが、山の景色が四方眺められる西脇にぴったりかなと思ったのですが、読み返すと『八月の十日前』からこの小説は始まっており、ちょうど今頃の季節だったのでなおのことでした。

主人公の尾形信吾は60才をこえ、妻、長男、そしてその長男の嫁と鎌倉で暮らしているところから物語は始まります。実は誰もが何かしらの問題を抱えており、家族という近しい存在がわかり合えないことの哀しさに直面していく話。そのかたわらで、穏やかに移りゆく鎌倉の季節が美しく描かれた作品です。

これを読んだとき印象的だったのは、日本人特有の繊細さのようなもの。たとえば、家族に対する遠慮や優しさ、気遣いや諦め、ある種の達観のようなものも含んでいるのですが、家族とのやりとりのなかで、その慎ましい感覚がとてもいい面として描かれていたように感じました。

そして自然の描写の細やかさが、はっとするほど美しい。舞台となった鎌倉は、作者自身も終生を過ごした土地でした。小説のなかで信吾はしきりに、自分の命が限りあるものであることに思いふける場面があるのですが、その心境と重なって、日々目に映る風景の美しさが一瞬のもので、自分も常に年を重ね、移り変わっているのだということをふと思い出させてくれます。

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播州織ができるまで⑥ -ビーム染色について-

2016.07.23

以前、染色時の糸の状態は綛(かせ)、チーズ、ビームの3つに分かれるというお話をしました。今回はビームでの染色について、少し工程を戻って紹介します。

ビームを使って染色するのは大量の経糸を必要とする、長い生地を織る場合。上の写真は染色のときに使うビームの側面で、ここに糸を巻き付けて染色します。筒状になっており、側面は穴が開いているので外側からだけでなく、内側からも染液がしみて糸がきれいに染まるのです。

 

ビーム染色した経糸

 

ビーム染色が大ロット向きの染色方法というのに対して、チーズ染色は中ロット向き。ビームの状態で染めた糸はこのまま経糸の準備工程に進むため、経糸にしか使われないのもチーズ染色とちがうところです。(経糸がビーム染色の場合でも、緯糸はチーズ染色で染め上げます。)そして、ビーム染色にしかない点がもう一工程。次回は[畦取り]という作業についてお話しします。

青垣

2016.07.18

西脇の街を囲う美しい山々の景色を言い表す言葉を見つけました。青垣「あおがき」は周囲を囲う山々が連なって青い垣に見立てた様子を表す言葉だそうです。垣は、垣根など家を隔てるものの他に、間や心を隔てる意味もありますが、街を隔てる山にも使われたのですね。

山は実際には青でなく緑ですが、青と緑の認識の境界は曖昧で、「青々とした葉っぱ」という言い方もあるので、青垣と言われてもあまり違和感は感じません。むしろ青と言われたら、記憶の中にある山々の風景は青だったような気がしてくるから不思議です。日本人の独特な感覚かもしれませんね。

言葉を知ることで山々を「街を隔てる垣」だと新しい認識を得ることが出来たのですが、日常の風景が変わって見える体験はいくつになっても新鮮です。物事は、それを言い表す言葉を知らなければ認識することが出来ません。知ることで意識がそこに向き初めて認識できるようになります。たとえばある花の名前を知ることで、今まで雑草だと思っていたものが雑草ではなくなるのです。知ることで自分の世界が広がっていく経験はとても貴重で刺激的です。年を重ねても知識を吸収することを止めずに、今見ている景色とは全く違う広大な世界を見てみたいものです。

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hatsutoki books vol.8 [synonym]

2016.07.17

今回紹介するのは[synonym]というアメリカで作られた冊子。hatsutokiをお取り扱い頂いているBarnshelfにて遭遇した一冊です。(日本で手に入るのは、ここだけなのだそう!)

Leigh Pattersonというテキサスの編集者によって創刊されたもので、アートやデザイン、写真、食など多分野の要素を特定のテーマに落とし込んで、独自のセンスで編集されています。(今号のテーマは「機能美」「観測」)。規模や創刊ペースなど、この冊子について詳細は分からないことが多く、300部限定というのもあり、いろんな意味で貴重なのかもしれません。

ページをめくると、身近なものや日常の風景でありながら、非日常を感じる写真の数々に思わずどきっとしてしまいます。無機質でありながら、少し色気があったり。「それもアリなんだ」と、考え方のネジが一つとれるような感触を覚え、お店の中でつい見入ってしまっていました。テキストも短いので英文もすっきりと読みやすく、何よりもページがきれいなのでふとパラパラ眺めたり、壁に飾ったり、自由に手に取って楽しめる一冊です。

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播州織ができるまで⑤ -サイジングについて-

2016.07.15

前回に引き続き、織物の経糸を準備する作業について。今回は[サイジング]という工程をお話しします。

サイジングは経糸に糊を付けることで織りやすくする工程です。播州地方の先染織物では、一般的に経糸に糊をつけ、緯糸にはつけないことが多いです。それは、経糸が緯糸に比べ、織っている最中で受けるストレスが大きいことが関係しています。

実際に生地を織るとき、経糸はピンと張られた状態になります。さらに、経糸を上下に動かすことで緯糸を入れ織り上げていくとき、隣り合う経糸同士がこすれ合ってしまうのです。そのため経糸には糊を付けて、引っ張る力に耐えられるよう強度を補強したり、こすれによる毛羽立ちを防いだりする必要があるのです。

特殊な糸を扱うときを除き、大抵は何千本もの糸を一斉に糊付けします。上の写真はまさに、これからサイジングが行われる入口部分で、奥へと糸が送られているところ。

糊がついた状態の経糸

糊がついた状態の糸は、パリッとした触り心地。hatsutokiがよく使う100番単糸という極細の綿糸も糊の成分や濃度、糸の張り具合などが細かに調整されることで、ようやっと織れる状態になります。

hatsutoki books vol.7 [水の生きもの]

2016.07.11

ランバロス・ジャーの[水の生きもの]。インドに伝わる民俗絵画、ミティラー画をモチーフに作られた絵本。ランバロス・ジャーはガンジス川のほとりで生まれ育ち、水とその中に棲む生きものに魅せられるようになったのだといいます。

ミティラー画は、インド東部のビハール州で受け継がれてきたもので、もともとその描き手は女性でした。母親から娘へと、3千年に渡って伝えられてきたものなのだそうです。日照りや、長い雨期、洪水、地震、ヒマラヤの極寒の風。それらの自然の脅威に対して、作物の豊穰と家族の幸せを祈って、土壁や床に描かれ続けてきました。
 
一枚ずつ擦られた絵の色彩は鮮やかで、水の生きものが生き生きと目に映ります。背景となる水の描写も細やかでうつくしく、しずかに命が溢れている、海の中の独特な世界が描かれています。波紋のような模様や、海底に佇む水の流れ、海藻の揺らめきが一本一本の線によって表現され、日常で流れる時間の速度と少し違った時空間を感じられる作品です。

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播州織ができるまで④ -整経について-

2016.07.07

染まった糸の緯糸は機屋さんへ、経糸は織る準備をするために整経工場に送られます。経糸準備は「整経」と「糊つけ(サイジング)」の二工程に分けることができます。

整経とは文字通り、数千本もの経糸を一本ずつ整える作業。上の写真のように、糸の長さを揃えて「ビーム」という円柱状のものに巻きつけていきます。

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<ストライプ柄の経糸>

ストライプ柄やチェック柄など経糸に複数の色を使う場合は、デザインどおりに経糸を並べることも整経作業の中で行います。

これで、織り上げるのに必要な経糸が準備完了、と言いたいところですがもう一工程。次回は経糸を頑丈にするための「糊付け」の工程についてお話します。

木漏れ日の神社

2016.07.06

ここは、西脇の中心から少し離れた小高い山のふもとにある静かな神社の森。夏でもひやりと冷たい空気と、大きな杉の間からの木漏れ日がとても心地よくて、たまに訪れたくなる場所です。

小さな村の古い神社なのですが、50mほどの砂利の参道は丁寧に整備されていて、左右を囲う杉はとても立派で綺麗に枝打ちされています。きっと昔々から村の人に大切にされてきたのだと思います。参道の入り口、控えめな鳥居なのですが、くぐると心が引き締まる気がして背筋がすっと伸びるのです。梅雨がもうすぐ開けて、夏バテしそうになったらここに行って気持ちをリセットしよう、と、今から夏バテ対策を練っているのです。

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