影織

「影織」という織物が、目の前の織機からはじめて生まれた時、今まさに糸の一本一本が組織し布を成した瞬間、「物を生み出す」という不思議で根源的な喜びと、その美しさにとても感動しました。ハツトキのアイデアと職人の技術が結びつき生まれたオリジナルの素材が「影織」です。西脇市から車で30分、河沿いを上流へ上り、急勾配な山間をいくつか抜け、橋を渡り、木漏れ日の美しい少し狭い道を抜けると、少し空気が澄んでひんやり感じられる場所に現れる赤い屋根の工場。 兵庫県多可郡多可町八千代で3代続き、家族で切り盛りする、小規模な(とは言え播州織では一般的な規模感の)工場、そんな場所で影織は誕生しました。

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影織パラソル / col:N(ネイビー)

播州織が栄えていた時代。初代の職人は絵に描いたよう様な昭和の職人だったそうです。ですが決して頑固で凝り固まった職人像ではなかったようです。柔軟な発想を持ち、新しいものを取り入れる気質の発明家の職人だったのだと思います。この技術の原型を開発し、特別な装置を知り合いの鉄工所に頼み製作したそうです。祖父の代から引き継がれた技術は、当時まだアナログな制御しか出来なかったのですが、2代目の職人が工場を仕切る様になると、時代の流れとともにより生産性の高いデジタル制御の機械に変わっていき、織機メーカーの協力によってデジタル制御が出来るようになり、更に可能性を広げました。そして3代目とhatsutokiの協業によりその技術の応用を見出し、細く繊細な糸で初めて織り上げたときには、見たこともないような不思議は模様が浮きあがりました。私達はそれを「影織り」と名付けました。その柄はどこかで見たことがあるような、はじめて見るような、記憶の片隅にある風景とリンクして、とても愛おしいものでした。風が吹き抜けた湖面、あるいは月明かりに照らされた山の斜面のような。奥行きの有る色味と連続したパターンが”影”のように浮かび上がり、不思議な魅力を放つ生地となりました。そこにある技術と、それを表現として成立させるイメージが結びついたとき、新しいテキスタイルが誕生したのです。

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水面のゆらぎからインスピレーションを得た

影織の特徴は、生地の表面に、うっすらと浮かび上がる不思議な柄。この柄はプリントでもなく、組織(ドビーやジャガ(カ)ード織)でもない、”糸の密度差”により生まれる柄なのです。相当な生地のプロが見てもどのように柄を作っているのか、全く理解できないほど。それほど他に類を見ない手法により生み出されています。

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影織 オープンカラーシャツ / col:N(ネイビー) / size:1,2

影織の特殊さを理解するには、そもそも織物とは何なのか、という話に戻らなければなりません。「織物とは糸を縦横に組み(組織)して布を成す」ものです。よって、その工程では必ず縦方向にタテ糸(経糸と表記されます)と、横方向にヨコ糸(緯糸)が必要となります。Y軸のタテ糸は、2000本~9000本(織物の規格に寄って変わります)の糸を横一列に並べ(このようなイメージ → |||||||||||||||||||||||| )そこに垂直に交差する様にX軸のヨコ糸が一本づつ組織されながら打ち込まれていきます。

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織物のタテ糸が横一列に美しく連なる様子

生地の話をする時に、編み物と織物が混同されがちなのですが、この2つは全く性質の異なるもので構造上の決定的な違いがあります。編み物は一本の糸をループさせながら絡ませていき、布を成します。よって、タテ糸とヨコ糸という概念がなく一本の糸があれば布となります。いわゆるニット、カットソー、Tシャツ、などと呼ばれているものは全て編み物の構造です。織物はタテとヨコ、2方向の糸の準備が必ず必要になります。織り始める前にタテ糸を綺麗に並べ無ければならない( → |||||||||||||||||||||||| )工程があり(これを「整えるタテ」、整経(セイケイ)といいます)。一般的には、織物は編みに比べ布になるまでの工程が多く、織り始めるまでの準備工程に時間がかかるので。小ロット生産が苦手であると言われています。

影織2

影織は、タテ糸とヨコ糸が垂直に交わっていません。特殊な装置でヨコ糸にゆらぎを与えることで織物となった時に、部分的に密度の詰まった部分と粗い部分が生まれ、その「粗密の差」で柄が浮き出して来るのです。このそして「ゆらぎ」を出す技術は元来は甚平などの和服地に使われていた技術がベースになっており、工場の先代の時代に発明家気質だった職人によって開発されたのです。アナログの機械の時代では、柄の出方を正確にコントロールすることができませんでしたが、今ではデジタル制御の織機により、完璧にコントロールすることが出来るように改良されました。実際に現場で、濃淡やピッチを調整したり、何パターンもの色の組み合わせをその場で試しながら、生地が誕生していきました。
※通常のヨコ糸 → ————————————— ゆらぎを与えたヨコ糸 → 〜〜〜〜〜〜〜〜

播州織の現場     播州織の現場2

現場での色、濃度、ピッチの調整。新しいチャレンジでは工場が近いからこそ連携が取りやすい

水面のゆらぎや、波のイメージから生まれた影織りのテキスタイル。薄手で軽やかな質感も春~夏に掛けて涼し気で心地よい素材です。古くからある技術を再発見し、職人と共にアップデートし、現代的なデザインに落とし込まれた影織りは、とてもhatsutokiらしい夏の定番素材の一つとなったのです。

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2014年から開発が始まり、2016年の春に初めて発表された。それ以来hatsutokiの春夏の定番テキスタイルとなっている。


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