hatsutoki books vol.26[Cave]

2017.11.20

ひとが最初に絵画のためにキャンバスを選んだ場所であることから名付けられた[Cave]。角田純さんというアーティストの20年間に渡る制作活動を時系列に収めたこの作品集は、静寂を帯びながらもよりシンプルに、より奥行きのある表現へ時と共に変化してきたようすが伝わってくる一冊。

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影のような、残像のようないくつにも重なる色の層は、動きを想像させ、時間を感じさせてくれます。リズムのある色彩はページをめくるごとに、まるで音楽を聴いているような感覚にさせてくれるのです。

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たまたま書店で出会ったこの本は、中が開けないように包装されていたのですが、日の光との相性がすばらしく良いこの表紙を見た瞬間に、全部見たくなって手に入れたものでした。それからというものの何を作るにあたっても、頭の体操や気分転換に、必ずと言っていいほどこの画集を手にしては、ぱらぱらとめくって眺めています。言葉のいらない「心地よさ」を一瞬で思い出させてくれる、大切な一冊です。

hatsutoki books vol.25[CATS, CATS, CATS]

2017.07.16

アンディ・ウォーホルが1950年代を中心に描きつづけていた、ネコのドローイング集。自宅で26匹のネコとともに過ごしていたというウォーホルによって、愛情たっぷりに描かれた、1匹1匹表情ゆたかなネコたちを見ることができます。ウォーホルといえば、キャンベル缶や、マリリン・モンローを描いたような、鮮烈な色彩使いをする印象が強かったので、しなやかな線で繊細な色彩で描かれたネコのすがたを見て、彼のほかの一面を見た気がして新鮮でした。

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“What makes a person spend time being sad when they could be happy?”

どうして人って、幸せでいられる時間を、わざわざ不幸にして過ごすのだろう。彼はネコから1日の過ごし方や、人生の時間の過ごし方はシンプルでいいのだ、ということを教えられていたのかもしれません。ふとした時に手にとって読んだり、大切な人への贈り物にもおすすめの一冊。

hatsutoki books vol.24 [blossom]

2017.07.07

7月の中頃まで、吉祥寺の古本屋・百年で展示を開催している、安藤晶子さんの[blossom]という作品集。彼女は主に、自分で描いた絵をピースにコラージュをして絵を作り上げています。ほとんどの作品が、ノートブック一冊分くらいの大きさなのですが、描きためた原画、それらを切り離したピース、絶妙なバランス感覚で配置されていくコラージュは、ぎゅっと密度が凝縮していて、なんだかおいしそうな果物のように愛おしい作品たちです。

コラージュという方法は、考えると日常のふるまいや過ごし方ともつながってくるものなのではないか、と考えるときがあります。自分がそれまでにこしらえた、ありったけの材料の中から一番ふさわしいものを、ふさわしい大きさに切り取って、ふさわしい場所に配置していく。どうしてもありあわせでは我慢できなくなったら、その場で作っては足していく。どんな材料を持ち合わせているかはそれまで自分が費やしてきた時間に付随するし、その時々でピースの見え方も変わってくる。そしていつの間にか、時間を重ねた「濃い」絵が完成する。安藤さんの絵には、そんな必然性と偶然性が隣り合った様な、ちょっとしたジャズのような感覚を感じられる気がします。

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そして、同時に面白いなと思うのは、一つ一つのピースはとてもシンプルであること。ある一定のパターンや柄の連続はモチーフも材料も、すごく身近で些細な何かだったりします。それらが組み合わさることで、小さい画面の中からでもどこか違う世界に連れて行ってくれる気分になるのです。

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「何でもない、けれどたしかにいとしい何ものか」「この世に、小さくてもみるべきものは、たくさんある。いくら大きくても、見なくていいものも、たくさんある」「何を見るべきかは、自分で決めていい」

そう言う彼女から生まれたものたちは自信のようなを持ち合わせていて、それを眺めるのはとても心地良いものです。

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東京の近くにお住まいの方は、ぜひ展示にも行ってみてください。展示スペースである本屋さんもいいところです。

[blossom]
期間:6月25(日)-7月15日(土)
場所:古本屋百年(東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10 村田ビル2F)
時間:月曜日~金曜日/12:00~23:00
   土曜日/11:00~23:00
   日曜日/11:00~22:00
   火曜日/定休日

(百年のホームページに移動します。)

hatsutoki books vol.23 [パイナツプリン]

2017.06.24

今回紹介するのは、吉本ばななのエッセイ[パイナツプリン]。『キッチン』で鮮烈にデビューしてから、作家として活動し続けてきた彼女の、初のエッセイ集。執筆した当時24才だった彼女の日常の出来事、友人や恋、作家について考えることについて。少女のようなあどけなさと、とてつもない落ち着きと冷静さを持ち合わせたエッセイは、まだどこか未完成でみずみずしさを感じます。

不安定な精神とデリケートな心を持ちながらも、家族や友人を愛し、やりたいことに前向きに取りくんで、人間らしく生きている。本当にいいなと思う。この言葉は、彼女が敬愛するスティーヴン・キングという小説家についてのエピソードから抜粋した、彼に対する思いを連ねた一節ですが、これはまさに、私自身が抱く彼女への印象。一人の作り手の、若き頃に考えていたことや目指していたものを知るのは、とても勇気をもらい、元気が出るものです。

また、この本で興味深かったのは、女性は「水分」が多くて変化が多いということについて書かれた部分。感情的な心の動きを、彼女は水の「揺れ」に例えていました。水が揺れるように、時に見ていてこわくなるような「瞬間美」のみずみずしさは女性の美しさなのだと。

これを読んで、「揺れ」はあっていいものなのだ、しょうがないのだ、とどこか救われた気分になり、それを以ってなお、たおやかにそれを乗り越えて、凛として毎日を過ごしていきたいなと思えるのでした。

hatsutoki books vol.22 [It’s beautiful here , isn’t it…]

2017.06.13

何でもない見過ごしていた風景が、どこかかけがえのない、特別で愛おしい物になってしまう。そんな魔法の様にも感じるイタリアの写真家、ルイジ・ギッリ(Luigi Ghirri)の作品集「It’s beautiful here , isn’t it…」をご紹介します。

ページをめくると、写真で映されているものは、どこにでもありそうな風景、誰も気にもとめていない物(古びた看板や、商店のショーウィンドウ、壁に生える蔦、無造作にテーブルに置かれた野菜……等々)なのです。しかし、それらの被写体はとても柔らかい光に包まれ、色彩にあふれ、精密に計算された構図、ウィットに富んだ暖かい目線で美しく切り撮られています。
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タイトルは邦訳すると「ここは美しい場所でしょう…?」といった感じでしょうか。「ここ」とは、きっと自分が今いるこの場所や時代のことなのかもしれません。ギッリの写真を見ていると「ここ」はとてもかけがえのない場所で、美しく感じるかどうかはあなた次第……と教えてくれているような気がしてきます。

写真を愛し、写真に生涯を捧げた芸術家 ルイジ・ギッリは大きく時代を変えるような、特別な、革命的な何かを生み出したわけではないかもしれません。しかしいつ、どんな時代の誰が見ても、どこかほっとするユーモアに溢れ、記憶のなかの大切なものを思い出させてくれるような写真を淡々と、そして情熱的に撮り続けた写真家なのです。

hatsutoki books vol.21 [OPEN FRUIT IS GOD]

2017.06.01

今回ご紹介するのは、1989年生まれの東京出身の写真家・清水はるみさんの作品集[OPEN FRUIT IS GOD]。彼女曰く、この作品は”冷蔵庫に貼られたマグネットのたわいもない言葉遊びのように、主に自然の中で遭遇したセットアップのような光景をパーツとして集め、スケールの大小を問わず組み合わせたもの”だそうで、その比喩がしっくりと来てしまう、物腰軽やかで少しふしぎなニュアンスを持った写真です。

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これを見ていると「違和感」は、時に一種のうつくしさや、人を惹きつける何かなのだと思えました。私たちは日常の節々で、ほとんど無意識的に人と人との関係性や、ものとの関係性、環境の文脈を読み解こうとします。「少しわかる、だけど分かりきらない」というのは、ちょっとしたことでもとても気になってしまうもの。

独特の質感や組み合わせを捉える視線はシャープでみずみずしくて、それでいて女性らしいやさしさをも感じます。日常の中にある違和感を見逃さず、それらをを再編集することで、散文的でありながらどこか心に引っかかる作品です。

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hatsutoki books vol.20 [センチメンタルな旅]

2017.03.18

20回目に選んだのは荒木経惟の[センチメンタルな旅]。1971年7月7日、荒木と妻・陽子は結婚式を挙げ、翌日からの新婚旅行を撮影した写真集です。この作品は当時私家版として1000部限定で作られ、幻の作品となっていましたが、昨年復刻版としてふたたび出版されました。

この旅路の記録の魅力の一つは言うまでもなく、荒木の写す妻・陽子のすがた。飾り気がなく、笑みも浮かべず、気品があって凛としている。彼女の目の奥にひそんでいる、うつくしさや一種の狂気のようなものを荒木は自然と写していました。見てはいけないものなのではないか、と思うほどに親密で愛情深く、それでいて甘くない二人の光景は「夫婦」という関係性について肉親ではない他者から初めて考えるきっかけになったかもしれません。

ページをめくると、旅の中で流れていた時間を肌で感じることができているような感覚になります。旅先で淡々とシャッターを押す荒木の写真からは、これから夫婦として人生を歩んでいくのだという刻々とした覚悟のようなものもうかがえる、素敵な夫婦の始まりが描かれた作品です。

hatsutoki books vol.19 [GIRLS STANDING ON LAWNS]

2017.02.19

今回紹介するのは、MAIRA KALMANとDANIEL HANDLERによって生まれた[GIRLS STANDING ON LAWNS]。二人は、ヴィンテージの写真からインスピレーションを得て、それぞれの創作に落とし込みました。その写真は、一般の人によって撮影された、ごくふつうのポラロイド写真。本のタイトルの通り、共通しているのは「芝生の上に立つ女の子」だということ。

イスラエル生まれのイラストレーター・デザイナーであるKALMAN は、時に白黒で映された写真に色を与え、風を感じるようなタッチで彼女たちの姿を描きました。そこに童話作家であるHANDLERが被写体のバックグラウンドを想像して、写された女の子が話しているかのようなテキストを添えてあります。

とても個人的な写真を見ると、日々のささやかな一瞬こそが幸せだなあと感じます。今になると、私たちは当たり前のように写真を撮る習慣がありますが、なぜ撮ることを好むのでしょう。嬉しい瞬間、お祝いのひと時、楽しかった思い出、それを忘れたくないからでしょうか。でも、昔の自分の姿を見たり、もしくは全く関係ない人の写真を眺めるなんて、よくよく考えればとてもふしぎなことに感じます。私たちは記録して見返すことで、忘れやすい自分たちの記憶になにかを蘇らせるだけだなく、たとえ全然知らない風景にも何かを新たに見出したりしているのかもしれません。「記憶をとどめたい」「過去をのこしたい」というヒト特有の感情は、とても人間らしくて、おもしろくて、美しいなと思う一冊。

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hatsutoki books vol.18 [ノーザンライツ]

2017.01.26

ぐっと冷え込む一月の終わり。西脇ではこの冬、二度雪が積もりました。寒い土地にまつわるものにしようと思い、今回はこの一冊。星野道夫さんの作品に初めて触れたのは、小学生時代の教科書でした。深く記憶にのこっているのは、水しぶきを上げながら河を渡る、カリブーの群れの写真。こんなに臨場感をもって、生き物を身近に感じられる世界があるのかと、その自然の力強さ、美しさが印象的でした。

それから少し時が経ち、あらためて星野さんの本を読むきっかけになったのは二十歳のとき。大学の先生はかつて星野さんを担当していた編集者の方でした。「彼と本を作るなかで、こんなやりとりがあったんだ」とたまに先生の口からふとこぼれると、急に星野道夫という人にリアリティを感じるようになったのでした。『本当に、同じ時を生きていた人なんだ』と。

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「カリブーの群れの足音を、何時間も聞いていた」と記されたのを読むと、どんな勢いを彼は肌で感じていたのだろうと、大地を駆け巡るカリブーの写真を見て想像してしまいます。この本は、アラスカの大自然で暮らす人たちの伝統や精神性、現代への生活スタイルの変化など、アラスカの土地に根ざした事柄がひとつ一つ彼の言葉で紡がれたもの。自然と折り合いをつけながら生きていこうとする人々の姿を真摯な眼差しで見つめ続けた随筆集です。文庫でありながら、カラーの写真も沢山載っているので、見て読んで楽しめる一冊!

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hatsutoki books vol.17 [Mottainai: The Fabric of Life]

2017.01.05

明けましておめでとうございます。今年最初に紹介するのは[Mottainai: The Fabric of Life]という本。これは、日本の人々が「木綿以前」に作っていた仕事着や日常着について書かれたものです。

昔の庶民は「木綿の仕事着」というのが現代の人が抱くイメージかもしれませんが、実は木綿が広まったのはそんなに昔のことではなく、江戸時代中期にようやく人々の手に渡って行ったようです。木綿が普及するまで、どのような材料で布を織っていたのか? 実は、山や野に自生する樹や草から糸を取り出していました。

それは、聞くほどに気の遠くなる時間と労力が費やされた布。たとえば、紙布(シフ)と呼ばれた生地は経糸に藤、横糸には藤に紙を細く切って紙縒りにしたものを織り込んでいました。紙に書かれた墨の部分が紙縒りにすることでまだら模様を浮かびあがらせ、杢糸のような奥行きのある生地になっています。それがとても美しいのです。
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科(シナ)やオヒョウ、藤、葛、芭蕉、大麻など、残っているものでも多くの種類があるのですから、きっと昔の人々はあらゆる植物で生地を生むことを試みたのでは……、と思います。華美な装飾や高い技巧による美しさとはちがって、長く使いたいという使い手の思いと、それにかけた時間が生み出す静かな美を感じる一冊です。

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