hatsutoki books vol.21 [OPEN FRUIT IS GOD]

2017.06.01

今回ご紹介するのは、1989年生まれの東京出身の写真家・清水はるみさんの作品集[OPEN FRUIT IS GOD]。彼女曰く、この作品は”冷蔵庫に貼られたマグネットのたわいもない言葉遊びのように、主に自然の中で遭遇したセットアップのような光景をパーツとして集め、スケールの大小を問わず組み合わせたもの”だそうで、その比喩がしっくりと来てしまう、物腰軽やかで少しふしぎなニュアンスを持った写真です。

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これを見ていると「違和感」は、時に一種のうつくしさや、人を惹きつける何かなのだと思えました。私たちは日常の節々で、ほとんど無意識的に人と人との関係性や、ものとの関係性、環境の文脈を読み解こうとします。「少しわかる、だけど分かりきらない」というのは、ちょっとしたことでもとても気になってしまうもの。

独特の質感や組み合わせを捉える視線はシャープでみずみずしくて、それでいて女性らしいやさしさをも感じます。日常の中にある違和感を見逃さず、それらをを再編集することで、散文的でありながらどこか心に引っかかる作品です。

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hatsutoki books vol.20 [センチメンタルな旅]

2017.03.18

20回目に選んだのは荒木経惟の[センチメンタルな旅]。1971年7月7日、荒木と妻・陽子は結婚式を挙げ、翌日からの新婚旅行を撮影した写真集です。この作品は当時私家版として1000部限定で作られ、幻の作品となっていましたが、昨年復刻版としてふたたび出版されました。

この旅路の記録の魅力の一つは言うまでもなく、荒木の写す妻・陽子のすがた。飾り気がなく、笑みも浮かべず、気品があって凛としている。彼女の目の奥にひそんでいる、うつくしさや一種の狂気のようなものを荒木は自然と写していました。見てはいけないものなのではないか、と思うほどに親密で愛情深く、それでいて甘くない二人の光景は「夫婦」という関係性について肉親ではない他者から初めて考えるきっかけになったかもしれません。

ページをめくると、旅の中で流れていた時間を肌で感じることができているような感覚になります。旅先で淡々とシャッターを押す荒木の写真からは、これから夫婦として人生を歩んでいくのだという刻々とした覚悟のようなものもうかがえる、素敵な夫婦の始まりが描かれた作品です。

hatsutoki books vol.19 [GIRLS STANDING ON LAWNS]

2017.02.19

今回紹介するのは、MAIRA KALMANとDANIEL HANDLERによって生まれた[GIRLS STANDING ON LAWNS]。二人は、ヴィンテージの写真からインスピレーションを得て、それぞれの創作に落とし込みました。その写真は、一般の人によって撮影された、ごくふつうのポラロイド写真。本のタイトルの通り、共通しているのは「芝生の上に立つ女の子」だということ。

イスラエル生まれのイラストレーター・デザイナーであるKALMAN は、時に白黒で映された写真に色を与え、風を感じるようなタッチで彼女たちの姿を描きました。そこに童話作家であるHANDLERが被写体のバックグラウンドを想像して、写された女の子が話しているかのようなテキストを添えてあります。

とても個人的な写真を見ると、日々のささやかな一瞬こそが幸せだなあと感じます。今になると、私たちは当たり前のように写真を撮る習慣がありますが、なぜ撮ることを好むのでしょう。嬉しい瞬間、お祝いのひと時、楽しかった思い出、それを忘れたくないからでしょうか。でも、昔の自分の姿を見たり、もしくは全く関係ない人の写真を眺めるなんて、よくよく考えればとてもふしぎなことに感じます。私たちは記録して見返すことで、忘れやすい自分たちの記憶になにかを蘇らせるだけだなく、たとえ全然知らない風景にも何かを新たに見出したりしているのかもしれません。「記憶をとどめたい」「過去をのこしたい」というヒト特有の感情は、とても人間らしくて、おもしろくて、美しいなと思う一冊。

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hatsutoki books vol.18 [ノーザンライツ]

2017.01.26

ぐっと冷え込む一月の終わり。西脇ではこの冬、二度雪が積もりました。寒い土地にまつわるものにしようと思い、今回はこの一冊。星野道夫さんの作品に初めて触れたのは、小学生時代の教科書でした。深く記憶にのこっているのは、水しぶきを上げながら河を渡る、カリブーの群れの写真。こんなに臨場感をもって、生き物を身近に感じられる世界があるのかと、その自然の力強さ、美しさが印象的でした。

それから少し時が経ち、あらためて星野さんの本を読むきっかけになったのは二十歳のとき。大学の先生はかつて星野さんを担当していた編集者の方でした。「彼と本を作るなかで、こんなやりとりがあったんだ」とたまに先生の口からふとこぼれると、急に星野道夫という人にリアリティを感じるようになったのでした。『本当に、同じ時を生きていた人なんだ』と。

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「カリブーの群れの足音を、何時間も聞いていた」と記されたのを読むと、どんな勢いを彼は肌で感じていたのだろうと、大地を駆け巡るカリブーの写真を見て想像してしまいます。この本は、アラスカの大自然で暮らす人たちの伝統や精神性、現代への生活スタイルの変化など、アラスカの土地に根ざした事柄がひとつ一つ彼の言葉で紡がれたもの。自然と折り合いをつけながら生きていこうとする人々の姿を真摯な眼差しで見つめ続けた随筆集です。文庫でありながら、カラーの写真も沢山載っているので、見て読んで楽しめる一冊!

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hatsutoki books vol.17 [Mottainai: The Fabric of Life]

2017.01.05

明けましておめでとうございます。今年最初に紹介するのは[Mottainai: The Fabric of Life]という本。これは、日本の人々が「木綿以前」に作っていた仕事着や日常着について書かれたものです。

昔の庶民は「木綿の仕事着」というのが現代の人が抱くイメージかもしれませんが、実は木綿が広まったのはそんなに昔のことではなく、江戸時代中期にようやく人々の手に渡って行ったようです。木綿が普及するまで、どのような材料で布を織っていたのか? 実は、山や野に自生する樹や草から糸を取り出していました。

それは、聞くほどに気の遠くなる時間と労力が費やされた布。たとえば、紙布(シフ)と呼ばれた生地は経糸に藤、横糸には藤に紙を細く切って紙縒りにしたものを織り込んでいました。紙に書かれた墨の部分が紙縒りにすることでまだら模様を浮かびあがらせ、杢糸のような奥行きのある生地になっています。それがとても美しいのです。
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科(シナ)やオヒョウ、藤、葛、芭蕉、大麻など、残っているものでも多くの種類があるのですから、きっと昔の人々はあらゆる植物で生地を生むことを試みたのでは……、と思います。華美な装飾や高い技巧による美しさとはちがって、長く使いたいという使い手の思いと、それにかけた時間が生み出す静かな美を感じる一冊です。

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hatsutoki books vol.16 [THE NEW WORLD]

2016.12.11

今日紹介するのは、ソール・スタインバーグの[THE NEW WORLD]というイラストレーション集。雑誌[The New Yorker]のために描かれた、少しシニカルでユーモアのある作品が収められています。

スタインバーグは、ルーマニアに生まれたユダヤ系の家庭で生まれ育ちましたが、ヨーロッパに住んだ20代、ファシスト政権下の勢力から逃れるために渡米しました。風刺的な要素を孕んだ作品を見ると、異国の土地で住む違和感を感じ続けていた彼の人生があるからこそ、描けていたんだとあらためて気づきます。

たとえば、他の場所に引っ越したり、職場を変えたり、時には旅行をして取り巻く環境が変化すると、自分が「よそ者」なんだとふと感じます。その距離は一見寂しくも感じそうですが、一方で「みんなにとっての当たり前」が当たり前ではなく感じることができる、新鮮な気持ちを味わえる機会にもなり得ることがあります。

そう考えると、少し住み慣れていないところに身を置くというのは、ものづくりをするときにいい働きを及ぼすのかもしれません。どんな日常でも新鮮に捉えることができれば、世界がどんどん広がりそうです。

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hatsutoki books vol.15 [thalia]

2016.11.07

今日紹介するのは、フジモリメグミさんという写真家の作品を収めたzine [thalia]。日常の風景を残していくことをテーマに、311の震災後から撮影された写真が並んでいます。「残していく」という言葉がふさわしく、はっと目をとめてしまうような一瞬の景色も”淡々と”シャッターを切っているかのような、独特の温度感が印象的。

初めてメグミさんの作品を見たのは、友人の紹介で表参道のスパイラルでの展示に行った時でした。水の底から上を見上げたときに撮ったような写真があって「これ、別に水に潜って撮ったんじゃないんだよね。結構、身近な場所で撮ってるよ」というようなことを話されていたのが妙に記憶に残っています。身近で、素朴で日常的で、それこそがうつしくて尊いんだなあということをふと思ってしまう作品。それでいて、甘えがなく、凛とした芯を感じられる。たまに「これは……なんだろう」というようなふしぎな景色もある。きっと同じ場面にいても、何か特別なアンテナを持っている彼女しか捉えられない風景なんだろうと、写真を見るたびに思えてしまいます。

このzineは、個展に行った時に買いました。好きなカットを開いて部屋に飾ったりできて、季節の変わり目などにカレンダーのようにページを変えています。メグミさんのキュートでチャーミングでさっぱりしたお人柄が、これまた素敵なのです。

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hatsutoki books vol. 14 [HET VERZAMELD BREIWERK VAN LOES VEENSTRA]

2016.10.17

今回ご紹介するのはLOES VEENSTRAという、オランダに住む女性が50年以上かけて編み続けた、500以上のウールのセーターが集められた本です。一つひとつ全く違うデザインのセーターは、色の組み合わせもかたちも独特でどれも魅力的。しかし、これらは長いこと誰にも着られないまま彼女の家で眠り続けていました。

実はもともと彼女は禁煙をしたかったがために、手持ち無沙汰にならないよう編物をしていたのだそうです。編んでは屋根裏にとっておくことを繰り返した蓄積……と聞くと、ページの中のニットたちがなんだか一層愛おしく思えてきます。オランダのデザイナー・CHRISTIEN MEINDERTSMAが着目したことをきっかけに作品を本にまとめたのだそう。フラッシュモブのようなスタイルで、彼女のセーターを500人以上に及ぶ出演者が纏う動画を作っていました。

自分がかつて織物を学んだ時の先生が「織物は機械や道具が色々とないとできないけど、編物はどこででも棒と糸さえあればできるのよね」と話していたのを、今も時々思い出します。生地のなかでも、使う糸の種類や生産の仕組みなど、織物とニットではちがうことが沢山。同じ素材を使っても出来上がった表情も全くちがいました。

というのも、実はhatsutokiも今シーズン初めて、ニットの商品を作ってみたのです。糸はカシミアとコットンを撚り合せたもので、それを編んだらどうなるのかワクワクしながら作ったニットキャップ。ほかの産地の技術を取り入れつつ、作るものの幅が少し広がったように思えます。オンラインストアにも登場していますので、よかったら見てみてください。

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コットンカシミアリブニットキャップ

[グレー][カーキ]

hatsutoki books vol. 13 [ホテル カクタス]

2016.09.23

9月も下旬にさしかかり、ようやく秋の気配が感じられてきました。hatsutokiの2016年秋冬のテーマは「帰郷」ということで、帰る場所にまつわる本にしようと思います。今回紹介するのは江國香織の「ホテル カクタス」。

この本の登場人物は、きゅうりと帽子と数字の2。なんのことだか……と思われるかもしれませんが、全員、正真正銘本物のそれらなのです。きゅうりはおおらかな土地で育った、みずみずしくすこやかな青年で、帽子はかつては行商をしたり、占いをしながら転々と色々な持ち主を渡り歩いていた放浪者、数字の2は几帳面な性格で、割り切れない物事には耐えられない性格です。

彼らが一つのアパートで住まう日常が描かれた話は、可笑しみがありつつも、もしも私たちの身の回りのモノが話せたならば……と想像してしまいます。ばらばらな生い立ちを持つ者同士が、何かの縁で一つ屋根の下で暮らしている時間は家族や友人のようでもあり、自分たちの身近な関係と重なります。へとへとになった時に帰る場所や、話し込んで夜が明かせるような人がいることは幸せだなと、ふと思ってしまう作品です。

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hatsutoki books vol. 12 [地球の上に生きる]

2016.08.21

今回紹介するのは、アリシア・ベイ=ローレルの[地球の上に生きる]。彼女が、1960年代後半にウィラーズ・ランチで暮らした20代の実体験をもとに綴られています。住居の作り方や野外での調理法、せっけんの作り方や薬草の利用の仕方(さらには自分でするお産まで!)あらゆる人の生活に関わるテーマについて、漂うような絵と文章で書かれている一冊。

この本が長く読み継がれているのは、自然とともに暮らすことへあこがれる気持ちや、今や知らないことばかりとなった環境への脅威が私たちの中にあるからなのだろうと思います。その一方で「意外と、飲み水って手に入れられるのかも」と安心する心地もおぼえたり。

この本に載っている内容をし尽くすということは容易くありませんが、一つずつ実践してみるということはできそうです。身近なところでいえば、果実酢の作り方というのを読んで、まずやってみようと思いました。そして、ついつい夢みてしまったのは可動式の住居。車や船の上で住んで生活するというのはとても身軽で、たくましくて、いろんな景色を見られそう。かつては移住の習慣が深く人々に根付いていたように、それは人生で一度経験したい感覚です。

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