hatsutoki books vol.11 [DOLCE VIA]

2016.08.14

今回紹介するのはCharles H.Traubの[DOLCE VIA -ITALY IN THE 1980s-]。彼はアメリカ生まれのストリートスナップを撮り続けている写真家で、1980年代、頻繁にイタリアを訪れてはローマやナポリ、ベニスやミランの街中を写したものがおさめられています。

海の青さも、人々が纏うビビッドな色の服も、街の中に溶け込む石像や石壁の白さも、生き生きとして目に映るのが印象的。日差しの強さが伝わってくるような鮮やかな色彩が、日本から離れた風土だということを感じさせます。

異国の地を訪れた者ならではのみずみずしい切り取り方で、人々の生活が映されているのは、眺めているだけで旅行をしているような気分。土地の陽気なのか、時代なのか、希望と憂いがどちらも色濃く映ったようなイタリアの人たちの暮らしは素朴で、チャーミングで開放的なのです。その雰囲気や空気に、なぜか懐かしさも感じてしまう一冊。

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hatsutoki books vol.9 [山の音]

2016.07.24

今回紹介するのは、川端康成の[山の音]。山というモチーフが、山の景色が四方眺められる西脇にぴったりかなと思ったのですが、読み返すと『八月の十日前』からこの小説は始まっており、ちょうど今頃の季節だったのでなおのことでした。

主人公の尾形信吾は60才をこえ、妻、長男、そしてその長男の嫁と鎌倉で暮らしているところから物語は始まります。実は誰もが何かしらの問題を抱えており、家族という近しい存在がわかり合えないことの哀しさに直面していく話。そのかたわらで、穏やかに移りゆく鎌倉の季節が美しく描かれた作品です。

これを読んだとき印象的だったのは、日本人特有の繊細さのようなもの。たとえば、家族に対する遠慮や優しさ、気遣いや諦め、ある種の達観のようなものも含んでいるのですが、家族とのやりとりのなかで、その慎ましい感覚がとてもいい面として描かれていたように感じました。

そして自然の描写の細やかさが、はっとするほど美しい。舞台となった鎌倉は、作者自身も終生を過ごした土地でした。小説のなかで信吾はしきりに、自分の命が限りあるものであることに思いふける場面があるのですが、その心境と重なって、日々目に映る風景の美しさが一瞬のもので、自分も常に年を重ね、移り変わっているのだということをふと思い出させてくれます。

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hatsutoki books vol.8 [synonym]

2016.07.17

今回紹介するのは[synonym]というアメリカで作られた冊子。hatsutokiをお取り扱い頂いているBarnshelfにて遭遇した一冊です。(日本で手に入るのは、ここだけなのだそう!)

Leigh Pattersonというテキサスの編集者によって創刊されたもので、アートやデザイン、写真、食など多分野の要素を特定のテーマに落とし込んで、独自のセンスで編集されています。(今号のテーマは「機能美」「観測」)。規模や創刊ペースなど、この冊子について詳細は分からないことが多く、300部限定というのもあり、いろんな意味で貴重なのかもしれません。

ページをめくると、身近なものや日常の風景でありながら、非日常を感じる写真の数々に思わずどきっとしてしまいます。無機質でありながら、少し色気があったり。「それもアリなんだ」と、考え方のネジが一つとれるような感触を覚え、お店の中でつい見入ってしまっていました。テキストも短いので英文もすっきりと読みやすく、何よりもページがきれいなのでふとパラパラ眺めたり、壁に飾ったり、自由に手に取って楽しめる一冊です。

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hatsutoki books vol.7 [水の生きもの]

2016.07.11

ランバロス・ジャーの[水の生きもの]。インドに伝わる民俗絵画、ミティラー画をモチーフに作られた絵本。ランバロス・ジャーはガンジス川のほとりで生まれ育ち、水とその中に棲む生きものに魅せられるようになったのだといいます。

ミティラー画は、インド東部のビハール州で受け継がれてきたもので、もともとその描き手は女性でした。母親から娘へと、3千年に渡って伝えられてきたものなのだそうです。日照りや、長い雨期、洪水、地震、ヒマラヤの極寒の風。それらの自然の脅威に対して、作物の豊穰と家族の幸せを祈って、土壁や床に描かれ続けてきました。
 
一枚ずつ擦られた絵の色彩は鮮やかで、水の生きものが生き生きと目に映ります。背景となる水の描写も細やかでうつくしく、しずかに命が溢れている、海の中の独特な世界が描かれています。波紋のような模様や、海底に佇む水の流れ、海藻の揺らめきが一本一本の線によって表現され、日常で流れる時間の速度と少し違った時空間を感じられる作品です。

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hatsutoki books vol.6 [ autoprogettazione? ]

2016.07.05

今回ご紹介するのは、デザイナーENZO MARIの著書で、1974年に発表した「autoprogettazione?」(訳:セルフデザイン)というプロジェクトを収録した一冊。紹介されているほぼすべての家具が1~2種類の部材しか使っておらず、のこぎりで直角に切って釘で打ち付けるだけで完成。ENZO MARIはイタリアの工業デザイナーですが、この本は彼の作品集ではなく、あくまでDIYができるように誰でも製作できる入門書になっています。

そうはいっても、まず見入ってしまうのが家具ひとつずつの造形の格好良さ。最低限の材料で提案されたかたちは、これぞ必要美なのだなと感じます。そのなかにも、彼の遊び心がひそんでいるようで「このかたちもいいけど、脚のかたちはこう変えてみても面白いだろう?」という声が、図面や完成図をみていると聞こえてきそうに思えます。

椅子や机がほしいとき、つい完成されたかたちから想像したり選びがちですが、そのアイテムで「何がしたいだろう」「誰と一緒に使おうか?」とより具体的に考えると、実はもっといろんな自由な形の家具を一人ひとり持ってもいいのではないかと思ってしまう、そんな一冊。この本を片手に、日曜大工をしてみると楽しいかもしれません。

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hatsutoki books vol.5 [Storm Last Night]

2016.06.25

今回紹介するのは、写真家・津田直の[Storm Last Night]。彼の祖父がかつて住んでいたという家を探しに、わずかな手掛かりをもとにはじまった、アイルランドの地への旅がおさめられています。

自身の記憶を遡りつつ歩き回るなかで、先住民の残した聖跡や、無文字文化に生きた人々が築いた住居跡、人間がかつて暮らしていた島々へ辿り着きました。風景が信仰の対象であったという古代の人々にとっては、その土地がどんな意味を持っていたのだろうかと、人と自然の関わりを考えながらそれぞれの場所を巡っていたのだといいます。

彼の捉える写真は、場所を決定づけるたしかな何かが写されているわけではない、自然の景色がほとんどなのですが、その風景になぜか固有の力強さを感じます。土地の空気や魅力というのは、そこにかつて人が住まった記憶や生き物の気配のようなものが蓄積されることで作られるのかもしれないと思うと、日常や旅先での風景もどこか特別に感じそうです。

hatsutoki books vol.4[造形思考]

2016.06.20

「芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、見えるようにすることにある」。音や光や運動と造形の結びつきについて考えつづけた画家パウル・クレー。今回紹介するのは、彼が遺したメモを編纂したものです。彼の作品がどのような方法論に基づいて描かれているのか、その軌跡が記されています。

クレーは絵画表現における線、明暗の調子、色彩など、画面を構成する要素一つひとつをひも解き、それぞれが何を体現し得るのかを制作を通して研究を繰り返しました。白という色は黒の地があることで存在でき、黒という色も同じく、白地があるからこそ認識できるというように、たとえば紙に筆を立てることからそもそもの行為について絵画を考え、意味を与えて作品を作っていました。

いま自分たちが生きている世界というのは、いろんな経験や現象に溢れては過ぎ去っていきますが、その「混沌」から「秩序」を見つけて昇華させる作業こそが「芸術家の仕事」なのだとクレーは記していました。それは、わたしたちが日常のなかで、出会う風景や身の回りのものごとから、新しい発見やものづくりのアイデアを見つけるのと近しいことかもしれません。

hatsutoki books vol.3[Lartigue’s Riviera]

2016.06.13

アマチュア写真家ジャック=アンリ・ラルティーグの写真集。リヴィエラという、地中海沿岸のリゾート地でくつろぐ人々の夏のバカンス風景を捉えたものです。時間の紐がほどけたようにのびやかな生活は、地中海の夏の日射しが肌を照らす感触や、海から上がって風にあたる心地よさをふと想像してしまいます。

ラルティーグは多くの恋愛をし、3度の結婚をしました。この作品集にも当時の妻が写りこんでおり、彼女のふとした表情はとても女性らしく親密で、彼らの幸せな日々が伝わってきます。

彼は11才の頃に初めて訪れてからリヴィエラの地に魅了され生涯かけて足を運び、ゆたかな人々の暮らしを撮り続けていました。ページをめくるだけで地中海を優雅に旅しているような気分になる一冊です。

hatsutoki books vol.2[women’s work]

2016.05.26

今回紹介するのは[women’s work -textile art from bauhaus-]。1900年代前半、ドイツの造形学校「バウハウス」にある織物工房で活躍した、女性のしごとについて書かれています。

当時のドイツは戦争で多くの兵士を失ったために、女性がしごとを見つけ、自活していく必然性がありました。そんな時代のなか、入学を申し出た女性の多くが、絵画をはじめとした芸術分野へ関心を寄せたにも関わらず、なんとそのほとんどは無条件に織物工房へ入る以外の選択肢を与えられなかったのだそうです。

今から約100年前、ドイツでは女性がすでに社会的な自立に向かっていたことにもたくましさを感じますが、織物以外に選ぶ余地のなかった彼女たちが、それでもなお燃え尽きることのない探究心で、織りのうつくしさとその可能性を追い求めた作品には目を見張ってしまいます。今より生きていく道が限られた時代でも、いいものを生み出していこうとする姿はひたむきで潔く、すてきだなと感じる一冊です。

hatsutoki books vol.1[暮らしの手帖]

2016.05.19

本を読むことは、よく旅に例えられることがありますよね。読書を通して考えが整ったり、新しい価値観に出会ったり。ものづくりのヒントになることもしばしばあります。hatsutokiのスタッフが影響を受けた、お気に入りの本を今日から少しずつ紹介していきたいと思います。

一冊目は、昭和35年5月に発行された[暮らしの手帖]。京都の古本市で見つけました。 今から50年以上も前に出されたものですが、料理のレシピ、生活の知恵、解決したい悩み事はふしぎと今も、ごく身近に感じます。

編集者が自ら、「そもそも」思うことをとことん考え抜く記事は、日々工夫を重ねていくことで、ゆたかさに出会えることを教えてくれました。『いったい、よいふきんとは、どんなものなのか』。それは日々のちょっとした物事に過ぎないですが、たしかに日常のなかに存在すること。ささいな一つひとつが自分の暮らしとなって、生き方になっているんだとふと思ってしまいました。