hatsutoki books vol.20 [センチメンタルな旅]

2017.03.18

20回目に選んだのは荒木経惟の[センチメンタルな旅]。1971年7月7日、荒木と妻・陽子は結婚式を挙げ、翌日からの新婚旅行を撮影した写真集です。この作品は当時私家版として1000部限定で作られ、幻の作品となっていましたが、昨年復刻版としてふたたび出版されました。

この旅路の記録の魅力の一つは言うまでもなく、荒木の写す妻・陽子のすがた。飾り気がなく、笑みも浮かべず、気品があって凛としている。彼女の目の奥にひそんでいる、うつくしさや一種の狂気のようなものを荒木は自然と写していました。見てはいけないものなのではないか、と思うほどに親密で愛情深く、それでいて甘くない二人の光景は「夫婦」という関係性について肉親ではない他者から初めて考えるきっかけになったかもしれません。

ページをめくると、旅の中で流れていた時間を肌で感じることができているような感覚になります。旅先で淡々とシャッターを押す荒木の写真からは、これから夫婦として人生を歩んでいくのだという刻々とした覚悟のようなものもうかがえる、素敵な夫婦の始まりが描かれた作品です。