
hatsutoki books vol.30 [「生活工芸」の時代]
2018.05.08
「20世紀という重く大きな時代が終わり、新しい世紀が訪れた、ちょうどその頃に始まる話です。この10数年を、僕たちは「生活工芸」の時代と呼んでみることにしました」。そう呼ぶことで、自分たちが生きている時代の価値観や暮らしを俯瞰してみようと試みた一冊。「生活工芸」に関して、陶芸家や編集者、デザイナーや骨董屋の店主、茶人など十三人それぞれの考えが寄せられています。読んだ後にその輪郭が少し浮かび上がってみえました。
私たちも普段、生地や服を作るとき、ものの背景が伝わるような伝達を心がけ、ものづくりの透明性を意識しています。手仕事ないし職人仕事の生活道具がグッと身近な存在になり、それとともに、生活そのものが大きな関心事になった時代だからこそ、その思考に対する歴史的な経緯や、社会状況の影響と共に今の時代を理解したいと思いました。
工芸、民芸について「用の美」という価値を見出されて、語られることがしばしばあります。興味深いなと感じた内容の一つが、実は「用」には二つの側面があるのではないか、という考え方でした。その一つは目に見える具体的な機能美。もう一つは「目に見えない抽象的な作用」。この物が傍にあることで落ち着きを得られる、あるいは背筋が伸びるというような体験をさせてくれるものです。骨董屋の店主は、水留めの処理をしていない器を買ったお客さんは「これをお皿として使うのではなく、土が身近にあった故郷を思い出すために手元に置きたい」と言って、買って行かれたことを例にあげていました。
「生活することは、どこへも行かないまま、遠くに行くことだと思います」。目に見えない「用」を言い換えると、こんな語り方もできるのだと思いました。台所を工夫して、気持ちよく家事をできるようにする。あるいは、暮らしの中でなんでもない時間に椅子に座っている間も含め、そんな日常の経験の中でも旅が自分を作るのと同じように、自分は作られているんだという言葉が、腑に落ちたのです。
結局、私たちは生活の中で旅をしているんだなあと。そのための服、そのためのハンカチーフ、そのための食器。ものとの出会いを一つずつ大切にしながら、旅をしてもらえるようなものづくりをしていきたいです。この季節からhatsutokiは洋服とその周りにある生活品も一緒におすすめしたいと思い、オンラインの店頭に並べはじめました。一つずつ試しながら前に進んでおり、お取り扱いのペースはゆっくりですが、使う人の日々がよりゆたかな旅になるようなものを揃えていきたいと思います。
ぜひ、ご覧くださいね。