vent de moe の扇子 (インタビュー)

2018.07.12

vent de moe(ヴァン・ドゥ・モエ)とhatsutokiのコラボレーションによる扇子のお取り扱いがスタートしています。扇子というプロダクトに着目した稀有なブランドvent de moeはどのように誕生したのか。そしてこの美しくて儚く、どこか懐かしい世界観はどのようにして作られたのか。 デザイナーの小林萌さんに5つの質問に答えていただきました。

◆なぜ扇子をデザインしようと思ったのですか?

小学生から続けている唯一の特技。それが手縫い・手刺繍・手作業です。 専門的な技術を持っているわけでもなく私にあるものは「動かせる手先」 それしかなかったのです。子を出産し、これからの仕事を人生をどうしていこうか。と考えた時、 私は「自分の棚卸し」をしました。そこで残ったこと、それが「手先」と「脚」。 脚を動かせばどこへでも行けて、行った先で専門的な知識を持っている方に お力を頂戴すればいい。そういうことを考えました。

わたしの最大の手先で、職人と共にプロダクトをつくりたい。しかも、まだ人々がみていない新しい景色を描きたい。たどり着いたところは「扇子」というちいさな舞台でした。その時、なにか空気を変えたくて、、と、近所の花屋に入りました。 そうしたらお店の方がこう接客してくれたんです。 「それは朝晩光の具合で閉じたり開いたり、こっちは少しロマンティックなレースの花弁みたいでしょ。ここの角度からみると頭を垂らした白鳥のようで。 この子は本当に長く愉しめるのよ」 私はそのとき、これだ!と胸に深く染み込んでくる確信的な何かがありました。vent de moeの扇子、それは各々に個性がある花のような存在になれたら。私たちの日々を応援してくれるような、鞄の中で踊り続ける「枯れない一輪の花」になることだと。

◆vent de moeで大切にしていることを教えてください。

「扇子」というちいさな舞台で、わたしはすべての商品を最大限の手作業で作ること。ちいさな花弁があしらわれた刺繍扇子のラインも、一枚一枚花弁を切り出して、その時の感覚で水玉の刺繍を加えたり、線画のようなステッチを加えたりして1点ものを多くつくりました。 ちいさなものがくっついている扇子をみて、「癒されます」とか「vent de moe が生まれてきてくれてありがとう」と、もったいないぐらいのお言葉をいただいて。でも、わたしができることはここなんだろうなと思いました。扇子って、言ってしまえば必需品では決してないのだけど、持ってもらうことによって、強くなったり、穏やかな気持ちになれたり。そんなパワーを放つプロダクトで在ることを大切にしています。

消費社会に振り回されそうな私たちは、消費したくないのに経済に消費しろと言われたり、さまざまな商品が溢れ変える日々にすっかり疲れている気もします。こんな強く言うのは大変おこがましいですが、vent de moe の扇子を持ってみたらみている風景が変わった。なんてところを目指したい。あとは、そのプロダクトを人々の生活に取り入れて頂ける価格を付けてあげること。それが私の使命だと思っています。生活の中に流れる風なのだから、かけ離れてはいけない。少し遠くに住んでいる友達に会いにいくために、我が子を送り出してあげる。そこまでしてあげたい母のような気持ちを持つことを大切にしています。あと、重要なことを忘れていました!はじめての取り組みも勇敢に!これが私のモットーです。

◆刺繍や図案、ブランドの世界観のインスピレーションはどこから来るのですか。

何もない田舎育ちが故に、周りに転がる実や草花、外壁の剥がれや、束ねて捨てられた庭木の枝も、私にはすべてがオブジェクトでした。そんな感覚が幼少期のからだに染み付いて今に至っているというか。気付いたら、その感覚は大人にならず、未だ私の身体のどこかに在り続けていて、脳みそにも染み込んでいるのか、そこから神経伝達で手先に命令が来ます。そんなイメージです(笑)。あと熱烈に影響をうけた、祖母の記憶ですね。杏の実はすっぱいとか、クルミの実は果実で包まれているとか。花の名前、ステッチの種類、月の周期、雲のよみ方、それらを教えてくれたのが祖母でした。今回作った扇子にも、この感覚に背中をおしてもらって沢山のモチーフを詰め込んでいます。

◆東京から松本に拠点を移し生活やものづくりにポジティブな変化があったか

隣の芝生は青い、、でも森や山がもっと青くて、夜は青さも混ざった深い紺色になるので周りを気にしなくなりました。つい住んでいる環境に見入ってしまうぐらいで、素晴らしい風が松本には吹いています。そのため、物質的に許す時間はとても集中して製作に臨めるようになりました。あとはとてもシンプルに、野菜が美味しかったり、アゲハチョウの羽化に立ち会ったり、雪どけの風がそよぐ夜が気持ちかったり、月にかかる雲のゆらぎを楽しんだりしています。この前なんて、家族が猿の親子に遭遇して写真をみせてもらったのですが、とっても笑いました。

あとは子育てをしながらこの仕事をしているのですが、子育てに対してもとてもポジティブになりました。ママは出張だけど、山や川が相手をしてくれたり、空も広いから包まれている気持ちになっているかな?私自身、東京での子育ては少し息詰ることもあったのですが、松本に移ってからはストレスが一気になくなりました。

◆今後の夢を教えてください。

私たちのすぐそばにある風。変化に伴って新しい風を起こしてくれたり、すうっと日常のあいだに風は流れています。山から降りてくる雪どけの風は夏の私たちの身体に染み渡る存在です。vent de moeの扇子も「ああ、また夏に会える」と人々に思い出してもらえるような、、夏にスイカがもうすぐ食べられるなあと、口の中がじわじわする感覚(笑)。そんな存在になることです。
切実な夢は、街中でvent de moeの扇子をつかっている人を見かけること! それと私自身の夢は、可愛らしいおばあさんになることかなあ。

 


ハツトキのテキスタイルを使ったコラボレーションの扇子。持っていれば、涼しげな夏を迎えられそうです。是非御覧くださいね。

 


[vent de moe/扇子(雨の次の日)]


[vent de moe/扇子(まっかな頬)]

それぞれの扇子に付けられたチャーミングな名前もとても素敵です。

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