捺染のしごと

2018.11.19

奥の方へ、長く続く捺染台。傾斜のある平面の上に生地を載せ、上から型と染料をおいて、手で一枚ずつ刷る「捺染」といわれる染色技術を持つ工場へ行ってきました。

台の傾斜は染めをほどこす生地の幅によってかわります。幅が高いほど傾斜がきつく、狭いほどゆるい。傾斜によって、どんな幅の生地でも均等に力が掛けられるのだといいます。しかし(あらためて考えると当たり前なのですが)腕が届く長さまでしか判を刷ることができないので、ある一定の幅以上のものは身体的にむずかしい。人の身体の限界によって、作れるものが決まるというのは、製造業の多くがどんどん機械化している今、とても興味深く、原始的な尊い要素のようにも思えました。

ちょっと話は飛びますが、手織りを本業のひとつとして営まれている方とお話したとき「海外には、日本の手機(手で織る機)から工業的な生産体制へ向かう急速な流れでは生まれ得なかった、機械化した手機というジャンルがある」と聞いたのが印象的で、見学をしながらそれをふと思い出していました。うかがった捺染の現場でも手捺染もあれば、セミオートの(半分機械化された)捺染機、ベタの部分を効率的に染められる機械など、時代の生産スピードやクオリティに対応して、細やかな機械化がされていました。工芸と工業の間にある、貴重な創造の現場。

工場は十一月なのに、水分を含んで少し蒸し暑いほどでした。傾斜台にのった生地を乾燥させるため、台の温度は調整できるのだそうで、現場は台から発する熱で暖かくなっていました。真夏はもっと暑いなか仕事をされていると思うと、体力勝負の仕事だと感じました。どんな美しいものも、身の回りのものは全部、職人さんの仕事でできている。それをあらためて教えてもらった一日でした。