2022.11.10

朝、街中が霧に包まれると、冬の始まりを感じます。小さな水の粒の一つ一つが朝日を拡散し、白く柔らかい光に街中が包まれる時間。日が登り始めるとたちまち霧はなくなり、山や青空が覗きいつもの街に戻ります。

毎日、同じ道を通る通勤の景色。刻々と変わる季節を肌で感じ、デザインのインスピレーションとなります。その土地らしさ、日々の生活の美しさをテキスタイルに込めて伝えられたらと思います。

お米の花

2022.09.05

西脇中の田んぼの穂が実ってきました。今年は僕も初めてお米づくりにチャレンジしています。一年間家族が食べられる分が採れれば十分と思いはじめた小さな田んぼですが、8月の終わり頃、いよいよ穂が出てきてくれました。6月の田植えから、2ヶ月半ほどでしょうか。雑草に負けないか不安だったのですが、立派に育ってくれました。そしてよく見るととても小さな控えめな白い花がついていて、ちゃんと花があるんだ!と些細な発見ですが、大人になって初めて知りました。

この田んぼでは、農薬を使わず、肥料も使っていないのですが、それでも元気に大きくなる不思議。水と土と微生物の力、そして植物自信がもつ生きる力を感じます。朝日で蜘蛛の巣がきらめき、風でゆれて葉音がなり、カエルやキリギリスの鳴き声が響く。

収穫までもう少し。イノシシや、鹿に荒らされない様に祈ることしか出来ませんが、新米が楽しみです。

_murata

根ざす

2022.01.14

山や畑や庭にある、草花、木々の様なものが作れたらと思っています。草木は、その場所の土壌や光、風や気候の影響を受けて育ちます。それぞれが同じようで違う個性を持っています。

私達は山の花を摘んで生けようと思った時に、いくつかの花の中から姿かたちの気に入ったものに自然と手をのばして積みます。その一つ一つには純粋で確かなオリジナリティを感じることができます。

ものをデザインする時には僕も同じように、その土地の風や、光や、風土、文化やそこに暮らす人々との関係性の中から、感じ取ったインスピレーションを込めたいと思います。きっとそれが根ざす、ということで、根ざすことがきっと、「根源」や「根本」を意味する「オリジン」につながって来るのではないかなと思うのです。

murata

ひずみに風を吹き込む

2021.12.13

人の価値観の変化は、時代の変化の速度に対してゆっくりなんだなということに最近気が付きました。

例えば、働き方。特に日本人のハードに働くことが美徳のような価値観は、時代が変わるにつれて変わって来ています。随分前から、何かがおかしいぞと皆、違和感を感じて少し窮屈な気持ちを持ちながらも人の価値観の変化はとてもゆっくりです。

僕がデザインで大切にしたいのは、時代の変化の速度と人の価値観の変化の速度の違いによって生まれる「ひずみ」をなくす様なことなんだなと思いました。

20世紀初頭のポール・ポワレというファッションデザイナーは、コルセットから女性を解放した、と言われています。ウエストを締め付けるコルセットを取り払い、ストンとしたリラックス感のあるシルエットをデザインし、その名前を歴史に残しました。

僕は、天然素材の醸し出す素朴でみずみずしい美しさが、どこか懐かしい記憶と繋がったり、触れた瞬間の心地よさが、私達が自然とともにあるという根源的な豊かさのようなものを感じさせてくれると考えています。布や服のデザインを通して今の暮らしの中で生まれたすこし窮屈なひずみ、その隙間に自由な風を吹き込めたら嬉しいなと思っています。

_murata

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硝子越しの景色

2021.06.29

居間の勝手口は昭和の匂いのする型硝子の窓がついていて、夕方になると西日が裏庭の色や光を映し出します。裏まで手入れが行き届いていないので、実際はうっそうとした薮、雑草でひどい状況ですが、ガラスに映る景色はピンボケの写真のような、水彩が滲んだような抽象的な色と光でとても美しい。

今は、誰の目にも明らかではっきりと認識できないものは評価がされにくい気がします。数字やロジック。わかりやすい広告。youtubeは2倍速で見る。すぐに明確な答えを求めてしまう。

少しピンボケな写真、こもったラジオの音、雑草の生えた畑。最近ではそういったことがとても心地よい。サン=テグジュペリの「大切なものは目に見えない」という言葉を思い出しました。

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先日大阪で開催したhatsutoki FEEL STOREにお越しくださった方々、ありがとうございました。来場はできなかったけれど、気にして声をかけてくれた沢山の方々もありがとうございました。私たちのインスピレーション、ものづくり、そしてそこから生まれる布や服のお話を直接自分たちの言葉で伝えることができてとても嬉しく思います。次回は7月に東京・祐天寺で開催予定です。東京方面の方々にお会いできることを楽しみにしております。

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bloom

2021.05.16

私たちの暮らしや習慣がここ一年間で大きく変わりました。そういった中で花は何も変わらずに同じ場所で同じ季節に咲き、木々は新芽を芽吹く。当たり前に、なにもなかったかのように。

春夏の制作のテーマは”bloom”でした、今までに撮りためていたさまざまな季節、場所の花々の写真を見返しながら、想像を膨らませました。世の中が変わっても色褪せず、変わらずに大切にされるようなものになればと思いながらデザインしました。

花びらのような繊細な生地のタッチを目指した[petal]のシリーズ。細かなパターンで編まれた[bloom]ニット。さらに草木の染料で染めた奄美大島の泥染、徳島の蓼藍(タデアイ)の染料から作られた本藍染などもも夏に登場します。綿や麻を中心に、原料、糸、染め、織のそれぞれの工程で吟味を重ねて制作したコレクションです。

予定していたイベントが中止になってしまったり、まだまだ先が見えない状況です。hatsutokiではオンラインでもなるべく実際の店舗のように安心して、ご購入いただけるように、システムを随時改善しています。生地に触ってみたい、サイズが気になる、着用の写真を送ってほしい、など是非お問い合わせください。スワッチをお送りしたり、追加の着用写真をお送りしたり、できる限り一人一人対応させていただきたいと思っています。

⇒お問い合わせはこちらまで

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そのまま

2020.12.21

ありのままの自分でいることは、簡単なようでいて難しい。強い意志がいると思う。知識や常識や世間の目に囚われて、美しいと思ったことを美しいと言うことは、わたしたちの社会の中では簡単ではないような気がします。けれど幸い、わたしたちが自分自身の意志や考えを示す方法は言葉の他にもたくさんあるようです。

仕事を通して、自分が良いと思った物事で誰かの役に立つことができるし、料理を通して生きることへの考え方を伝えることができるかもしれない。また着る服によって、考え方を表明することも出来るかもしれません。選挙を通して世の中を変える実感はなかなか持てないかもしれないけれど、意志を持つことで自分が”世の中”に巻き取られてしまわないことはできる筈だと思っています。

今年は静かに過ごす時間が増えたことで、物や生活の本質的な部分をより考えるきっかけとなりました。そして僕は布や服に、物が持つ物質的な価値以外にも、着る人の意志や、思いや、考えを支えてくれる、自分が自分でいて良いのだと思えるような”力”を込めたいと思いました。美しいと思ったことを潔く美しいと言う、そんな力の支えに少しでも役にたてたらと思います。

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シーズンのビジュアルの小話。今季のシーズンのビジュアルを写真家の山崎萌子さんにお願いしました。撮影期間中、山﨑さんが生活の中で実際に服を着用しながらセルフポートレートによって撮影して頂きました。そのまま、ありのまま、をテーマに「素」であることの美しさを模索。コロナ渦での新しい試みでしたが、とても美しい写真を撮って頂きました。全3回のシリーズです。是非御覧ください。

2020 Autumn Winter Season visual
→vol.01
vol.02
vol.02

_murata

2020.10.23

いま、綿の収穫がピークを迎える季節です。家のすぐ近くの畑では、白、茶色、緑の綿を育てていて、乾燥して弾けた綿はとてもフワフワでかわいらしい。綿は食べられないし、布にして服にするのにも、あまりにも手がかかります。現代では基本的に大規模農園であったり、途上国の産業としてじゃないと成り立たないのが綿の産業です。

日本で綿の栽培は生産性がない、合理的じゃない、経済的じゃないと、頭で考えたらまずそういう結論に達すると思いますが、でも実はそういうものほど楽しい気がしてしまうし、ここまで経済合理性に浸かっていない物事を探す方が難しかったりします。

今年は初めて同じ畑で花やススキやハーブなど庭の植物、染料になる植物などを育てました。更に昔から高級な生地の起毛に使われるチーゼルと呼ばれる植物も、大きなアザミの様な実の植物です。畑が華やかになり、畑に行く楽しみが増え余計に愛着がわきました。次は野菜や果実も一緒に育てたいなぁと来年の作付けの想像を膨らませています。

野良仕事をしたらお腹が減るし、よく眠れます。季節の変化を身体で感じるし、山や空、土、水、草木は発見やアイデアに溢れているのです。例えば同じ白でも品種によって、生成りが強いものやより白いものがあったり。和綿は下向きに咲き、洋綿は上向きに咲くとか。土の養分によって、薄い葉の色、濃い葉の色がある、とか。それはとても細やかなことで、畑に行くとこっそり教えてくれる秘密のようなこと。そういう美しさを布や服を通して伝えられたらと思っています。

_murata

イチジク

2020.10.12

イチジクの実が裏庭になり始めると、秋の心地よい日差しと甘い匂いに包まれて、なんとも幸せな気持ちになる。良く熟れた実のほとんどは鳥に食べられ、見つからずに残った分け前を僕は少しだけいただく。サラダに入れたり、ジャムにしたり。

柿やイチジクが実をつける様子はとても力強い。特別肥料を与えたり、何か手入れをするわけでも無いのだけど、毎年たくさんの実を付ける。採りきれなかった実や葉やが地面に落ちて循環していくのだろう。その土地がもともと持っている力と、自ら循環を生み出す仕組みで毎年実をつける。

そんな姿を見ていたら、僕らのものづくりもそう有りたいなと思うようになった。その土地が持つ文化、風土、人間らしさから、「自然と実がなるように」生まれるもの。それは素朴な甘さの果実で、誰かの生活の幸せの一部であり、また次の循環につながる種でもある。そんな果実を実らせたいとおもう。

_murata

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テキスタイルの新作で、フィグブラウン、という色を作った。フィグはイチジクのことで、淡いブラウンにピンクが混じり合った色です。
秋の庭の景色や甘い香りがふわりと感じられる様な、そんなイメージのテキスタイルです。
→こちらも是非御覧ください[little garden シリーズ]

夏の風

2020.06.04

青い空に入道雲
若々しい緑の森を
吹き抜ける風

しんとした夜
深い紺色の空の下
遠くの街の音を運ぶ
夏の夜風

風は運ぶ
高気圧から低気圧へ
季節と、匂いを
人が生まれる遙か前から

 


暑い夏、青空に白い雲と、笹の葉を揺らす風の心地よさ。目を瞑ってそんな瞬間を思い出しながら描いたのが”summer wind”の生地でした。

オイルパステルで、サッ、サッ、サッ、と一筆書きで描いています。勢いよく描くことで、風の流れと潔さを表現したかったからです。

また大きな柄は、それだけで力強く、私達を楽しませてくれます。夏の暑い日にも心地よく使っていただける様な、サラリとした素材感を意識したストール、傘は防水加工とUVカットを施して晴雨兼用に展開しています。是非、御覧くださいませ。

summer wind シリーズ