播州織について②では播州織「産地」の特徴や構造、産地の特性(長所・短所)ついて書きました。
http://hatsutoki.com/blog/189/about_banshu-ori_2/
播州織について③では、日本製の技術がすごい、とよく耳にすると思いますが一体何がハイクオリティなのか?といったことを、実際に私達が普段播州産地で見聞きし、感動した体験を例にしつつ、具体的にお伝えしようと思います。
まず、ハイクオリティ(高品質)な織物とはどんなものなのか、という点について先に少し考えてみます。(ここではとりあえずクオリティ=品質というとし、色や柄、デザイン性は抜きにます)織物はタテ方向に数千本もの糸を綺麗に整列させ、ヨコ方向の糸を一本づつ差し込んで行くことで、はじめて布となります(※上の写真はタテ糸を数千本、整列させ、織り機にに乗せているところです。デザインされた柄通りに糸を並べる作業は今でも一本一本、手作業がほとんどです)。1反(通常50m)の布を、美しく織り上げる作業というのは、数千本の糸を50mの間、絡まらせることもなく、傷つけることもなく扱い、ヨコ糸を数万回、数十万回と差し込んで行く作業を一度も間違いなくこなす作業なのです。例えば、ふわふわと舞う埃が糸の上に落ち、生地の中に打ち込まれてしまう事を「飛び込み」といい不良と言われてしまいます。タテ糸が2本同時に切れ、テレコに結んでしまうと、柄や組織が崩れタテに筋が入ったような傷が出来てしまいます。私は50mの織物が傷一つなく美しく織られるということがどういうことなのかが分かったとき、とても感動したことを覚えています。
それでは更に前の工程、糸を染める染色の高品質とはなんでしょうか。播州織は先染めの産地なので、糸を染める工程はとても重要な工程の一つです。逆に質の悪い染色の代表例は色落ちです。洗濯をしたときに色が落ちて他の物についてしまった、というのを誰しも一度は経験しているのではないでしょうか。西脇で染められた物は殆どの場合、そんなことにはなりません。西脇の水質とも関係しているのですが、重要なのは染めた後、何度も何度も水を通し、染まりついていない染料を徹底的に洗い流す工程です。よく「イタリアの布は発色が良い」という話を耳にしますが、これは染まりついていない染料を落としきっていないから、とも言われています。海外の布はよく色落ちすると言われるのもこのためです(数値で検証しているわけではないので一概には言えませんが)。染め上げた後、洗いを繰り返しこれ以上は色落ちしないという基準を厳しく定めているため、発色はピークから少し落ちたところに最終収まるのです。
染色についてもう一つ驚いたのは「色の出し方」です。色は混ぜれば混ぜるほどくすんで行き、黒に近づいていく性質があるのですが、染色の染料も同じです。染料を混ぜて、イメージに近い色を出すのですが、混ぜるほど発色は落ちます。つまり発色という点のみを追求するのであれば染料メーカーの色を単色で使うのが一番よい発色になるのですが、その場合デメリットがあります。もしその色が廃盤になった場合、二度と同じ色を出せなくなってしまうのです。なので染色工場は染料を必ず混ぜて使います。単色に近い場合でも、少し他の色を混ぜるのです。そうすることで、もしある色番が廃盤になっても違う色との混合で再び色を再現できるという工夫をしているのです。
上記はほんの一例ですが播州織の高品質を維持する為の工夫は沢山あります。hatsutokiの織物はその中でも更に特別です。100番単糸という極細の綿糸を使用しているので、糸の扱いに関しては、各工程で更に工夫と丁寧な仕事が必要なのです。例えば織りの前工程で糊付け(サイジング)と呼ばれる工程があります。糸を織りやすくするために糊を付け、補強する工程なのですが、100番単糸を織り上げるためにはこの工程がとても重要です。糊の調合、付ける量のコントロールが完璧でなければ、糸が切れてしまい織れません。この糊付けが出来るのは播州で一軒のみと言われているのですが、糊付け屋さん曰く「ただ強くガチガチに固めるだけでは駄目。程よく粘りをもたせ、柔軟な糊付けをすることで糸が切れなくなる。また最も重要な事は、すべての工程を丁寧に行うこと」だそうです。そしてこの糊をつけた後の糸を織り工程の機屋さんに運ぶのですが、この運ぶ際の”トラックの運転が荒”いと、糸が切れて駄目になります。ゆっくり丁寧に運転し、糸を運ばなければならないのです。
これ以外にも、様々な工程で沢山の人の手を通り、織物は出来上がります。誰かが手を抜いたり、下手な仕事をすると、織物の品質は下がります。またそれ以外に環境もとても重要な要素です。綺麗な水がなければ綺麗な染は出来ません。美しい自然から生まれる美しい色。これもアジアに負けない日本の品質を支える重要な要素の一つなのです。
ある一つの工程を見ただけでもこれだけ多くの工夫があることがわかります。これは代々受け継いでいる技術と経験、知識、そして柔軟な現場でのアイデアと知恵が、播州織のクオリティを支えているのです。
③では播州織のクオリティ(品質面)について、私達が実際に見聞きして感動した事を書きました。④では、技術の更に次の段階。つまり意匠性や付加価値をどう生み出すのかという点で、「播州織の今とこれから」という切り口でお話します。
過去の記事
播州織について①-播州織と西脇-
播州織について②-播州織産地の特徴-
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