播州織ができるまで①-糸の染めについて-

2016.06.15

hatsutokiは、播州織の産地として有名な兵庫県西脇市を拠点に服作りをしています。写真は、織物に使われる糸を染める染色工場。染色の工程において大切な水は、播州を流れる川からめぐまれています。播州織は、糸を染めてから織る「先染め」の手法を用いているのが特徴のひとつです。糸の中心まで染め、仕上げには何度も洗いを繰り返すことで、織り上がった生地は色が深く、色落ちもしづらくなります。

糸に負荷を与えず、均質な色合いで染め上げるのはとても難しいのだそうです。hatsutokiでも定番のコットン100番単糸という極細の糸はとくに繊細なので、染色段階で糸にダメージを与えないようにする技術がよりいっそう求められます。織る段階になって生地に不具合が生じた際でも、そもそも染めに原因があるかもしれないと、ときには染めの職人さんが織りの工場に駆けつけることもあるといいます。

播州の地域では染めや織りなど、生地が織り上がるまでの作業が分業で行われています。それぞれの職人さんが各工程を見通して仕事を仕上げることで、初めて品質の高い織物が生まれるのです。これから数回にわたって、播州の地区において、どのように糸が生地に仕上がっていくのかをあらためて紹介していこうと思います。次回は引き続き、染色の現場で行われている仕事についてお話ししていきます。

水面のゆらぎのような ”影織り”

2016.04.18

巧妙に浮かびあがる波模様。hatsutokiが今シーズン商品化した”影織”(カゲオリ)について。

熟練の職人の連携から生まれる糸、染め、織り、その中でも工場によって特徴は様々です。特殊な装置で陰影をつくりだした”影織”は、昔からある技術を新鮮な目で見つめ、何度も工場に通い実験を繰り返し誕生しました。水面のゆらぎのような見たこともない表情と不思議な色の交わり、光に透かした時の陰影が美しい生地です。これは、繊細な糸の密度によって柄をつくり出しています。洋服という枠にとどまらない、不思議な素材。

「色」は、染めだけでなく、光や重なりによって混ざり合い姿を現します。自分たちの色をこれからも追求していきます。

 

SHADOWオーバードレス(ネイビー)

 

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播州織について③-MADE IN JAPANのクオリティ-

2016.03.27

播州織について②では播州織「産地」の特徴や構造、産地の特性(長所・短所)ついて書きました。
http://hatsutoki.com/blog/189/about_banshu-ori_2/

播州織について③では、日本製の技術がすごい、とよく耳にすると思いますが一体何がハイクオリティなのか?といったことを、実際に私達が普段播州産地で見聞きし、感動した体験を例にしつつ、具体的にお伝えしようと思います。

まず、ハイクオリティ(高品質)な織物とはどんなものなのか、という点について先に少し考えてみます。(ここではとりあえずクオリティ=品質というとし、色や柄、デザイン性は抜きにます)織物はタテ方向に数千本もの糸を綺麗に整列させ、ヨコ方向の糸を一本づつ差し込んで行くことで、はじめて布となります(※上の写真はタテ糸を数千本、整列させ、織り機にに乗せているところです。デザインされた柄通りに糸を並べる作業は今でも一本一本、手作業がほとんどです)。1反(通常50m)の布を、美しく織り上げる作業というのは、数千本の糸を50mの間、絡まらせることもなく、傷つけることもなく扱い、ヨコ糸を数万回、数十万回と差し込んで行く作業を一度も間違いなくこなす作業なのです。例えば、ふわふわと舞う埃が糸の上に落ち、生地の中に打ち込まれてしまう事を「飛び込み」といい不良と言われてしまいます。タテ糸が2本同時に切れ、テレコに結んでしまうと、柄や組織が崩れタテに筋が入ったような傷が出来てしまいます。私は50mの織物が傷一つなく美しく織られるということがどういうことなのかが分かったとき、とても感動したことを覚えています。

それでは更に前の工程、糸を染める染色の高品質とはなんでしょうか。播州織は先染めの産地なので、糸を染める工程はとても重要な工程の一つです。逆に質の悪い染色の代表例は色落ちです。洗濯をしたときに色が落ちて他の物についてしまった、というのを誰しも一度は経験しているのではないでしょうか。西脇で染められた物は殆どの場合、そんなことにはなりません。西脇の水質とも関係しているのですが、重要なのは染めた後、何度も何度も水を通し、染まりついていない染料を徹底的に洗い流す工程です。よく「イタリアの布は発色が良い」という話を耳にしますが、これは染まりついていない染料を落としきっていないから、とも言われています。海外の布はよく色落ちすると言われるのもこのためです(数値で検証しているわけではないので一概には言えませんが)。染め上げた後、洗いを繰り返しこれ以上は色落ちしないという基準を厳しく定めているため、発色はピークから少し落ちたところに最終収まるのです。

染色についてもう一つ驚いたのは「色の出し方」です。色は混ぜれば混ぜるほどくすんで行き、黒に近づいていく性質があるのですが、染色の染料も同じです。染料を混ぜて、イメージに近い色を出すのですが、混ぜるほど発色は落ちます。つまり発色という点のみを追求するのであれば染料メーカーの色を単色で使うのが一番よい発色になるのですが、その場合デメリットがあります。もしその色が廃盤になった場合、二度と同じ色を出せなくなってしまうのです。なので染色工場は染料を必ず混ぜて使います。単色に近い場合でも、少し他の色を混ぜるのです。そうすることで、もしある色番が廃盤になっても違う色との混合で再び色を再現できるという工夫をしているのです。

上記はほんの一例ですが播州織の高品質を維持する為の工夫は沢山あります。hatsutokiの織物はその中でも更に特別です。100番単糸という極細の綿糸を使用しているので、糸の扱いに関しては、各工程で更に工夫と丁寧な仕事が必要なのです。例えば織りの前工程で糊付け(サイジング)と呼ばれる工程があります。糸を織りやすくするために糊を付け、補強する工程なのですが、100番単糸を織り上げるためにはこの工程がとても重要です。糊の調合、付ける量のコントロールが完璧でなければ、糸が切れてしまい織れません。この糊付けが出来るのは播州で一軒のみと言われているのですが、糊付け屋さん曰く「ただ強くガチガチに固めるだけでは駄目。程よく粘りをもたせ、柔軟な糊付けをすることで糸が切れなくなる。また最も重要な事は、すべての工程を丁寧に行うこと」だそうです。そしてこの糊をつけた後の糸を織り工程の機屋さんに運ぶのですが、この運ぶ際の”トラックの運転が荒”いと、糸が切れて駄目になります。ゆっくり丁寧に運転し、糸を運ばなければならないのです。

これ以外にも、様々な工程で沢山の人の手を通り、織物は出来上がります。誰かが手を抜いたり、下手な仕事をすると、織物の品質は下がります。またそれ以外に環境もとても重要な要素です。綺麗な水がなければ綺麗な染は出来ません。美しい自然から生まれる美しい色。これもアジアに負けない日本の品質を支える重要な要素の一つなのです。

ある一つの工程を見ただけでもこれだけ多くの工夫があることがわかります。これは代々受け継いでいる技術と経験、知識、そして柔軟な現場でのアイデアと知恵が、播州織のクオリティを支えているのです。

③では播州織のクオリティ(品質面)について、私達が実際に見聞きして感動した事を書きました。④では、技術の更に次の段階。つまり意匠性や付加価値をどう生み出すのかという点で、「播州織の今とこれから」という切り口でお話します。

 

過去の記事

播州織について①-播州織と西脇-

播州織について②-播州織産地の特徴-

 

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播州織について②-播州織産地の特徴-

2016.03.20

播州織について①では歴史や大まかな織物の特徴、街の風土について書きました。
http://hatsutoki.com/blog/149/about_banshu-ori_1/

 

②では、もう少し詳しく踏み込んで、播州織「産地」の特徴や構造、産地の特性(長所・短所)ついて説明しようと思います。

播州織産地の一番大きな特徴は、工程ごとに細かく分業性になっている、と言うことだと思います。一つの織物が出来上がるまでにはすごく沢山の工程があり、その工程の殆どが西脇では分業になっているのです。例えば、染色・整経(せいけい:タテ糸を準備する工程)・織り・加工(生地の風合い出し/仕上げ)、が大きな工程ですが、この間にも細かい工程が沢山あります。ちなみに島田製織のように工場を持たない会社は「産元(さんもと)」といいます。産元の仕事は少し分かり難いのですが、産地を一つの大きな工場に見立てた場合の「企画・営業・生産管理」です。生地を企画・デザインして東京や大阪から生地のオーダーを取ってくる、そして産地の工程を使い生地を作り収めるところまでが産元の仕事です。

ここまで細かい分業化が進んだのは、何万、何十万メートルもの大きなオーダーへの生産を効率よく生産するために最適化されたシステムを求めたためでした。ですので、西脇の特性の一つとして、大きなロットに向けた体制となっている、ということが挙げられます。生産量が増えれば単価が下げれる、少なければ単価が跳ね上がるのです。これは長所でもあり、短所でもあるのです。

もう一つ播州織産地の特徴としては、「綿を先染めで織ることに特化している」ということが挙げられます。これはどの産地にも言えることなのですが、綿を先染めで織らせたら世界屈指のクオリティを出せると思いますが、ウール100%や麻100%、シルク100%などの織物は、基本的に他の産地で生産した方が良いものになると思います。なぜなら播州織産地の機械や設備は綿を織ることに特化しているからです。機械の調整を綿織物を織るためにチューニングしているのです。そして機械だけでなくそこで働く人の技術、知識も綿に特化しています。(例外として、綿×シルクの織物や綿×ウールの織物は作れます。その場合もタテ糸は綿でなければいけないという制約があります。織物の特性上、長ーく準備したタテ糸に対し、ヨコ糸を入れていくのですが、ヨコ糸は割りと簡単に変えられるのです。問題はタテ糸で、播州織産地では基本綿のタテ糸しか作れないので、シルク100%やウール100%は不可能なのです。他の産地、例えば名古屋(尾州)のウール産地では、ウールのタテ糸を作ることが一番得意な筈です。産地全体の機械も人もウールに特化しているのです。よって尾州で綿のシャツ地を探すべきではないのです。)写真は糸の染色見本です。このような染色の色見本が産地全体では50万色あると言われており、世界一と聞いたこともありますがやはり基本的に綿の色見本です。綿の色を探すなら西脇が一番良いと思いますが、ウールやシルクとなれば、やはりそちらに特化した産地で探すべきなのです。

③に続く
-日本製の技術がすごい、とよく耳にすると思いますが一体何がハイクオリティなのか?といったことを、実際に私達が普段播州産地で感じるた体験を例にしつつ、具体的にお伝えできればと思っています。-

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播州織について①-播州織と西脇-

2016.03.19

播州織は兵庫県西脇市で栄えた織物の地場産業です。最近では地場産業やmade in japanを見直す風潮の中で播州織の名称が広がりつつあります。ですが「播州織の特徴ってなに?」とよく聞かれますので、何回かに分けて「播州織について」というトピックで連載します。どうぞお付き合いください。①は播州織の全体像とその中心の街西脇についてです。

播州織を一言で説明すると「綿で薄手の先染め織物≒シャツやブラウス用の生地」です。先染めとは読んで字の如く、先に糸で染めてから織る手法で、「チェックやストライプの柄を作れることが特徴」です。(逆に後染めとは、織った後に染める技法、布でドブンと染めてしまったり(その場合は無地の生地に)、プリントなども後染めです。)産地の人は、今でもギンガムチェックやロンドンストライプのシャツ生地を見たら播州織かな、と連想するほどです。現在でも国内に流通する国産のチェックやストライプシャツの50~70%は播州織と言われている程です。(しかし多くは播州で織られた後、アジアで縫製されるのでタグは「made in japan」にはなっていません。)チェックやストライプ以外にも、いわゆる「シャンブレー」と呼ばれる(タテ糸とヨコ糸の色を変える)無地の綺麗な織物や、トラッドなスタイルの代名詞オックスフォードなども定番です。上の写真は機屋さんから頂いた、古いノート。昭和41年頃ですが、受けた仕事の内容が事細かに記されており、上記のような定番以外にも風変わりな「ドビー」と呼ばれる柄を施した織物の記録が残されています。ノートをめくると今では機械がなくなり作れなくなってしまった貴重な織物の見本などもありました。

播州織の起源は200年以上前にとある大工が京都から織機制作の技術を持ち帰ったことが始まりとされています。その後農家の副業として地場に根付きました。1950年代〜70年代ころまでにはいわゆる「ガチャマン時代」と呼ばれ、ガチャンとは機械を動かせば1万円儲かる、と言われ最も景気が良かった時代です。西脇もこの時代が最も儲かった時代だったそうです。河になんと屋形船が出ていたり、全国から女工さんが集まり、中心の商店街は人で溢れてそうです。ちなみに女工さんの給食として開発された小ぶりで甘口の醤油ラーメンは「播州ラーメン」と呼ばれ今でも愛されています(西脇出身の方は播州ラーメンの味=ラーメンと思って育つので、外のラーメンをはじめて食べると衝撃を受けるそうです)。今も好景気の名残は少し街に残っています。当時の遊びばとしてスナックが並ぶ通りがあり今も残っていますし、大きなお屋敷も多いのです。

1980年代には生産量がピークを迎え、その後は右肩下がりに生産が下がります。1989年に1000件以上あった機屋(はたや:織物を織る工場、多くは家族経営の家内工業)が現在では180件弱となりました。とは言え今でも街を歩くとどこからともなくガシャンガシャンと機織りの音が聞こえてきたり、のこぎり屋根が街中に残っていたり。糸の染色工場の煙突からは湯気がモクモクと出ていたり。まだまだ織物の街は健在なのです。

②に続く
-もう少し踏み込んで具体的に産地の特性(長所・短所)について触れます-

 

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山のジャガード

2016.03.12

四方を山に囲まれた西脇の生活。日々の美しい景色にインスピレーションを受けてデザインを考えます。写真は新柄の生地を試織(ししょく:試しに織ること)しているところです。

毎朝、山の間をぬうように通勤するのですが山をよく観察していると、山の表情は四季折々に変化して季節の移り変わりを教えてくれます。春、4月の雨が止み気温が上がると、山は一斉に新芽を吹き、若葉色に染まります。夏になるに連れ、緑はどんどん深緑になり、夏が終わる頃に一番濃い緑になるのです。秋が来ると気温が下がるに連れ段々と茶褐色に。そして11月ころには紅葉し、1月頃になるともう枝だけの茶色い山になります。冬の朝は白いモヤが掛かって影だけになったり、霜が降り朝日できらきらと光ったり。夜に雪が振り突然雪化粧がかかったり。冬には冬の色がつくのです。

写真は来年の秋に登場する予定のジャガード織り。柄を自在に操れるのがジャガードの特徴ですが、西脇の急勾配な山(何故か西脇の山は急斜面で尖っています)の連なる景色と四季の色を表現しました。写真の色は秋、夕日で真っ赤に染まる山の色です。実はこの生地、織り上がった後にもう一工夫、仕上げの工程があります。手が掛かるのですが、他の織物では再現出来ないジャガードならではの表情に変化します。

山々

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※追記
半年以上の歳月を掛けて商品が並びました。是非ご覧ください。

シルクジャガードストール 小¥15,000+tax

[レッド] [グレー] [カーキ][ブラウン]

シルクジャガードストール 大 ¥22,000+tax

[レッド] [グレー][カーキ][ブラウン]

透き通った生地

2016.03.03

透き通った、水のような生地は2016年春夏のメインビジュアルにもなっています。ですがこの素材、ものすごく難易度の高い織物でした。

「ボイル=強撚糸」と呼ばれる糸を使うことでさらりとした風合いを実現したのですが。細いコットンのボイルはとても切れやすい上に、切れるとバネの様にヒュルヒュルと縮まるのです。何しろ、糸が切れて切れて、全然織り進まないのです。通常の半分いかのスピードでしょうか。なんとか、織り上がった織物も次の風合い出しの工程では、ちょっとした機械の調整で破れてしまったり。

とても多くの方の苦労の末、やっと洋服になりました。この生地は特にそんな心持ちです。どうか良い人に大切に着てもらえたら嬉しいです。もうすぐオンラインストアでも公開予定となっています。どうぞお楽しみに。

 

_murata

渾身の「ミックスモクスカーフ」

2015.12.19

今季の渾身の一作!hatsutokiシャツの要である極細のコットンの糸を数十本も”束”にして、1本の太い糸を作るところから始まりました。異なる色糸を組み合わせた先染めならではの色の交わりは、何度も色の組み合わせを変えたり、撚り合せ、様々な杢糸(モクイト)を試作しました。同じ糸でも組み合わせによって無限のバリエーションが生まれます。何本もの細番手の綿糸が複雑に撚り合わさり、通常の太い糸では作り出せない、今までにない質感が完成しました。

その商品はこちらをご覧ください。
http://hatsutoki.com/shop/products/detail.php?product_id=420

Webマガジン「コロカル」でハツトキを紹介していただきました。

2015.06.25

山に囲まれ、綿を育てる。 産地発の新しい服づくり「hatsutoki(ハツトキ)」
http://colocal.jp/topics/art-design-architecture/secori/20150624_50260.html

マガジンハウスが発行するWebマガジン「コロカル」でハツトキを掲載していただきました。

素敵なタイトルから始まるこの文章を綴ってくれたのは、キュレーターの宮浦晋哉さん。数年前から何度も(多い時には月に2度も!)西脇に足を運んでくれています。西脇を自分の足で歩き、自分の目で見て、色々な人からリアルな話を聴く。そんな姿勢で素敵な紹介をしてくださいました。ぜひご覧ください。