
hatsutoki books vol.33 [夜中の薔薇]
2018.09.24
この秋一番にご紹介する本は、向田邦子のエッセイ集[夜中の薔薇]。先日、古本屋で並んでいたすがたをみて、うつくしいと思い、つい手にしてしまいました。
今の時代でも、女性の生き方のあこがれとして語り続けられる彼女。子どもの頃のみずみずしい追憶、仕事と共に駆け抜けた二十代の出来事、四十代を終えようとする当時に考えることまで、彼女の人生のエッセンスになったことを想像させてくれる話が50あまり、連綿とつづられた随筆集になっています。
「恐れと、むなしさを知らず、得意になって生きるより、それはずっとすばらしいことだと思います。
どんな毎日にも、生きている限り「無駄」はないと思います。「焦り」「後悔」も、人間の貴重な栄養です。いつの日かそれが、「無駄」にならず「こやし」になる日が、「あか」にならず「こく」になる日が、必ずあると思います。真剣に暮らしてさえいれば-です。」
なんてことが言えるのは、この時代までをパワフルに、凛として駆け抜けてきた彼女だから説得力があるのよね、と思いつつ、読むとどこか救われた気分にもなりました。
話は最初にもどりますが、この本の装丁を担当されたのは、司修さんだそうです。カバーを外した表紙も、とても手が込んでいて、すてきなつくりでした。
この本が出版される2ヶ月前の1981年8月に、向田さんは飛行機事故で亡くなりました。これはただの個人的な見方ですが、装丁のほか、裏表紙や扉絵などこの本のすがたから、編集者さんたちやこの本に関わる方の向田さんを悼む気持ちと愛を感じます。