播州織ができるまで⑪ -加工について-

2016.10.27

織り上がった生地は、それからのもう一手間で全く表情を変えます。今日は最終工程、生地の加工について。

加工は生地の風合いを変化させるほか、シワ感や起毛感を与える表面に施す加工、耐熱や耐水、消臭や遮光など機能性を加える加工などがあります。冷感効果のある加工にはキシリトールの成分が使われていたり、保温効果にはカプサイシンが使われていたり、そんなものもあるんだ!というものも。

北播磨地区にある加工場は現在3社。他の工程に比べて大掛かりな設備を必要とするので、機屋さんのような小規模ではなく、大きな工場を構えて経営しています。機械がずらりと並んで、そこに反物が流れるのを見ているだけでは、どこの工場も同じようなことができるのではないか…と思ってしまいましたが、柔軟加工が得意なところや、コーティングが長けているところ、起毛が上手なところなど加工場によって得意分野が全然違ったことに、この産地に来たときに驚きました。

写真は加工が一通り終わった後、最後に品質検査をする「検反」の現場。目の前を流れていく生地の端から端までに目を配らせ、生地に不良がないかを見極めます。時には数千メートルにも及ぶ商品も、この最終工程で検査を綿密に受けたのち、初めて人の手に渡っていました。

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播州織ができるまで⑩ -製織について-

2016.10.03

織物が出来上がるまでの工程を追ったこのシリーズも10回目。ようやく、織りの工程までたどり着きました。

一口に織物といっても、いろいろな素材があるように織り方も様々。織りたい生地によって、実は機械も違います。生地を織る工場を、産地では機屋(ハタヤ)さんと呼んでいますが、機屋さんによって持っている機械も変わってきます。染めや加工と大きく違うのは、家業として営んでいるところが多いということ。ほとんどが家族数人で、何台もの織機を一斉に動かしています。

機械で織る、ということは手織りなどと比べて量産もできてスピードも早く、便利であるように聞こえますが、それはまったく違いました。機屋の中は、ある程度の湿気がなければ糸が切れやすくなってしまうため、夏は時に40度を越える室内で作業をしなければなりません。それでも、手織りでは到底扱えないような細い糸は、ちょっとしたはずみで切れてしまい、職人さんはその度に一本ずつ手で結び直していきます。

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織機自体のメンテナンスも、職人さんの日常の仕事。調子が悪ければ機械を一旦停止させ、部品を交換する必要があれば、昔動いていた古い織機から部品を解体して使いまわす。塵や糸くずが織り目に飛び込まないよう、常に機械は綺麗に保つ必要があります。広い工場、大きな機械を目の当たりにするとそれがいかに大変なことか実感します。

播州織ができるまで⑨ -経通しについて-

2016.09.09

前回は、畦取りの工程で経糸を色順に並び替えるという作業について話しました。今回は、織り出すまでの最後の段階のお話として「経(へ)通し」について。

経通しの作業は、幾つかの段階に分けられます。一つは「経糸切れ停止装置」というものに糸を通す工程。これは織っている時に糸が切れたことを感知するセンサーの役目を果たしており、写真の手前側に写っているものです。これによって数千本もの糸が一本でも切れたとき、機械が瞬時に止まるようできています。

次は「綜絖」というものに糸を通します。綜絖は糸を通す穴のあるワイヤーで、写真では奥側に写った長いもの。これは、経糸を上下に動かすための道具です。上下に開いた経糸の間を緯糸が通ることがくり返され、布が織られていきます。

そして最後に「筬」というものに経糸を通します。 経糸が一本一本絡まないように整え、同時に密度を決めるものでもあります。緯糸を打ち付けて織り進めていくための道具です。

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数千本もの糸を、実は数工程に分けて何度も通されていることに驚き。これらの作業は機械で行うこともできますが、未だに手作業も主流です。ボイルといわれる強撚糸や、とても細く繊細な糸などは特に手で行わなければいけません。流れるような手さばきで、着々と糸を通し続ける職人さんのお仕事は、息を止めて見入ってしまいます。

播州織ができるまで⑧ -畦取りのしごとについて-

2016.08.09

前回に引き続き、畦取りについてのお話です。この道38年の職人さんの手は畦を取るかたちを保ったまま、指が大きく広がらないのだそう。一本ずつ糸をすくっていくと聞いただけでも気が遠くなるように感じますが、100番単糸などの極細糸だとなおのこと難しそうに思えます。そんな考えとは裏腹に「細い糸ほど、やりやすいのよ」と職人さんは話していました。

作業の上で大切な仕事道具の一つは、爪だと言います。眠るときは手入れした爪が折れないよう、下の写真のように親指を覆うように握って寝る癖が付いているのだとか。仕事場の足元には、爪切りやヤスリも置かれていました。この爪を使って糸を拾っては、色順をひたすら整えていきます。

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仕事に合わせて、からだの一部も順応させたり、変わることに仕事への真摯な姿勢をあらためて感じました。仕事や習慣というものは日々の生活の中で、その人自身に変化を与えていくものなのだということを実感。

播州織ができるまで⑦ -畦取りについて-

2016.07.28

今回は、畦取りについてのお話。経糸をビーム染色した場合、企画した柄通りに糸を並べ直す作業が必要となります。機械で行うこともできますが、柄の大きさや糸の色数が複雑なものは人の手によって、一本一本並べ替えられます。田畑の境界線を示す「畦」という言葉から、色ごとに区別して柄組みする工程のことを「畦取り」といいます。

うかがったのは、この道38年の職人さんの仕事場。そこには、巻かれたビームがずらりと並んでいました。朝から晩まで、糸をひたすら指ですくい続けているのだそうです。

デザインの指図書をもとに、職人さんは糸の並び順を自分で紙に書き出していきます。本数を書き、色鉛筆で区別した表は作業の際に張り出され、一本ずつ数えながら作業します。

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馴染みの機屋さん曰く、職人さんは一本たりとも狂いなく、いつも確実に柄を組んでくれるのだといいます。数え間違えていそうだと思えば、数千本もの糸を始めから順番に数え直すことは何度もあるのだそう。先染織物の産地で生まれるうつくしい模様の生地は、この気が遠くなるような作業があってこそ作られていました。

播州織ができるまで⑥ -ビーム染色について-

2016.07.23

以前、染色時の糸の状態は綛(かせ)、チーズ、ビームの3つに分かれるというお話をしました。今回はビームでの染色について、少し工程を戻って紹介します。

ビームを使って染色するのは大量の経糸を必要とする、長い生地を織る場合。上の写真は染色のときに使うビームの側面で、ここに糸を巻き付けて染色します。筒状になっており、側面は穴が開いているので外側からだけでなく、内側からも染液がしみて糸がきれいに染まるのです。

 

ビーム染色した経糸

 

ビーム染色が大ロット向きの染色方法というのに対して、チーズ染色は中ロット向き。ビームの状態で染めた糸はこのまま経糸の準備工程に進むため、経糸にしか使われないのもチーズ染色とちがうところです。(経糸がビーム染色の場合でも、緯糸はチーズ染色で染め上げます。)そして、ビーム染色にしかない点がもう一工程。次回は[畦取り]という作業についてお話しします。

播州織ができるまで⑤ -サイジングについて-

2016.07.15

前回に引き続き、織物の経糸を準備する作業について。今回は[サイジング]という工程をお話しします。

サイジングは経糸に糊を付けることで織りやすくする工程です。播州地方の先染織物では、一般的に経糸に糊をつけ、緯糸にはつけないことが多いです。それは、経糸が緯糸に比べ、織っている最中で受けるストレスが大きいことが関係しています。

実際に生地を織るとき、経糸はピンと張られた状態になります。さらに、経糸を上下に動かすことで緯糸を入れ織り上げていくとき、隣り合う経糸同士がこすれ合ってしまうのです。そのため経糸には糊を付けて、引っ張る力に耐えられるよう強度を補強したり、こすれによる毛羽立ちを防いだりする必要があるのです。

特殊な糸を扱うときを除き、大抵は何千本もの糸を一斉に糊付けします。上の写真はまさに、これからサイジングが行われる入口部分で、奥へと糸が送られているところ。

糊がついた状態の経糸

糊がついた状態の糸は、パリッとした触り心地。hatsutokiがよく使う100番単糸という極細の綿糸も糊の成分や濃度、糸の張り具合などが細かに調整されることで、ようやっと織れる状態になります。

播州織ができるまで④ -整経について-

2016.07.07

染まった糸の緯糸は機屋さんへ、経糸は織る準備をするために整経工場に送られます。経糸準備は「整経」と「糊つけ(サイジング)」の二工程に分けることができます。

整経とは文字通り、数千本もの経糸を一本ずつ整える作業。上の写真のように、糸の長さを揃えて「ビーム」という円柱状のものに巻きつけていきます。

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<ストライプ柄の経糸>

ストライプ柄やチェック柄など経糸に複数の色を使う場合は、デザインどおりに経糸を並べることも整経作業の中で行います。

これで、織り上げるのに必要な経糸が準備完了、と言いたいところですがもう一工程。次回は経糸を頑丈にするための「糊付け」の工程についてお話します。

播州織ができるまで③ -染料について-

2016.06.29

繊維を染める染料は大きく分けて二種類で、藍染めや泥染めなど自然由来の天然染料と、石油をはじめ化学的に合成された合成染料があります。合成染料のなかでも、綿織物の産地である西脇は「反応染料」という染料を用いて綿糸を染めています。この染色方法は堅牢度がよく、色が鮮明であるのが特徴です。

写真は、様々な濃度の染料が入ったビーカー。基本的な染料はたった数種類なのですが、それぞれを抽出し混ぜ合わせる割合を微調整して、出したい色を作ります。

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近い色合いでも、その幅は無限。工場内にはすごい量の糸の色見本がずらりと揃っています。微妙な色味も、染料のデータをしっかりと取ることでいつでもまた同じ色を再現できます。ブランドが通年を通して安定したクオリティの商品を作り出せる裏側には、染色のこまやかな仕事がなくてはならないのです。

播州織ができるまで②-糸について-

2016.06.21

今回は、染める「糸」について。前回お話ししたように、hatsutokiの生地が生まれる播州は先染めの手法が特徴のひとつです。染色時の糸の状態は3つに分けることができ、それぞれ綛(かせ)、チーズ、ビームと呼ばれています。上の写真は、ナチュラル・チーズの固まりのような形をしていることから「チーズ」といわれています。

播州では糸を紡績会社から調達して、織物を作っています。仕入れた原糸も同じようなロール状なのですが、染色するときのチーズとはちょっとした違いがあります。ひとつは芯。原糸の芯は紙製や木製のものですが、染色のために巻き直されたチーズは、芯がステンレス製で表面に多数の穴が空いていたり、メッシュ状になっていたりします。これは、ロールの内側から染液に染み込ませるためです。(写真の右側は染色のために巻かれたもので、左は染色後の糸が紙製の芯に巻き直されたものです。)

もうひとつの違いは、チーズの上部分。染色のためのチーズは、少し肩が落ちたように丸みを帯びた円柱になっています。これは糸の重なり具合によって染めむらを生じさせないためで、このかたちにする工程を「肩おとし」と呼んでいます。前回の写真は、チーズが今まさに染色の釜へ入っていくようす。この手法で、まとまった量の糸を染め上げることができるのです。