泥染めを訪ねて、金井工芸へ vol.2

2018.02.06

今回も引き続き、昨年の冬にうかがった『金井工芸』さんの泥染めの技法について紹介します。前回は奄美大島で「テーチ木」と呼ばれる植物、車輪梅の枝をチップ状にして、丸二日間煮詰めて染液を作る工程までお話ししました。これからいよいよ、繊維を染める作業に移っていきます。

写真は、煮詰めたテーチ木の染液が入った桶。この中で職人さんの塩梅で染液の濃度を少しずつ上げながら、何度も液を替えて、繰り返し揉みこみ染色していく「テーチ木染め」を行います。染液が染み込むと、ずっしりと重みを増す繊維を扱うのはかなりの重労働。夏は工場の中が40℃を越えるのだそうです。

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この桶を見てお分かりのように、染めるのは服の場合だと一着ずつになります。それを全てほとんど同じ色味に染め上げるのも、とても難しいのだそうです。そして何度も色を重ねるうちに、繊維はだんだんと赤茶色に染まっていきます。

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そして、工房のすぐ隣にある泥田で染める「泥染め」の作業に移ります。泥に含まれる鉄分とテーチ木のタンニンが反応して、赤茶色に染った生地がだんだんと黒く変わっていきます。この「テーチ木染め」と「泥染め」を交互に何度も繰り返し、独特な深みのある黒褐色に染め上げていくのです。こうして、泥染めの美しい色は生まれていました。

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染めの一連の流れを体験して感じたのは、自然に付与する割合がとても多い技術だということ。染料や染めの方法についても、手間と時間が沢山掛けられていましたが、そのほかにも例えば、工房内で電気を使っていたものといえば、染液に浸った生地を脱水するための機械。染めの仕事は明るいうちだけ行われるために使われる光源も最小限でした。ほとんど機械を使わず行われていることに、職人さんから教えられてふと気づき、はっとさせられました。

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写真のように工房の様子をみると、天井がところどころ吹き抜けになっています。てっきり電気を使わないためであったり、正確な色に染め上げるために外光を取り入れているのかなと思っていたのですが、なんとその屋根の一部は、台風で屋根が取れたためなのだと言われてびっくり。日本の南部に位置するこの土地は、台風の被害を被ることはついて回ります。だからこそ建物がどんな被害になっても、最小限の電源で仕事をし続けられることが必然になっていました。地場と結びついた伝統技術は、一筋縄では行かない自然の厳しさと付き合いながら、今へと受け継がれていました。

泥染めを訪ねて、金井工芸へ vol.1

2018.02.01

少し時間が立ちますが、昨年の終わり頃に、奄美大島へ行ってきました。島の伝統工芸として受け継がれる「泥染め」がどんな場所で行われているのか知りたくなり、『金井工芸』さんへうかがった時のことについて書いていきます。hatsutokiでも以前、播州で織り上げた生地をこちらの工房で染めていただいきました。この生地、記憶に新しい方もいらっしゃるだろうと思います。

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どうやって、こんな深くて強い色が出るのでしょうか。実際に染めの工程を体験しながら、うかがってきました。

記事のトップにあるイメージは、泥染めをする際に使う「車輪梅(シャリンバイ)」。奄美大島では「テーチ木」とよばれています。たくましい太さの枝ですが、意外と街中でも車道の脇に生えている種類の木。この土地では豊かな土壌に恵まれ、大きく育つのだそうです。職人さんは森に行って、この木を刈りとるところから始めます。染めに必要な分を調達できたら、機械を使って、チップ状に加工していきます。

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それを大きな釜で煮出していくこと、なんと丸々二日を要すのだそう。また、テーチ木が取れないときは、少し染めるまで期間をあけることが必要な時もあります。今日明日でできる作業ではないことの理由が今回あらためて分かりました。

そして感心してしまったのは、この木材の行方について。煮た後に出し殻となった木材も、次に煮出す時の木材として使うことができる。そして、燃えた後の灰は、同じ工房で行われている藍染の染料を作るのに使うことができたり、島の陶芸工房へ渡り、釉薬として使われているそうなのです。自然から生まれたものは、無駄なく利用して、土へ帰っていく。その循環が理にかなっていて、とても健やかなものづくりの在り方だと思いました。

さて、こうして出来上がった液が染料となって、泥染めの次の工程へと進んでいきます。次回もお楽しみに!