なぜガラスで作品を作るようになったのですか?ブランドのはじまりときっかけを教えて下さい。
1980年代初頭に世界現代ガラス展を美術館で観る機会があり、そのときにガラスには無限の可能性があると感じたから。ブランディングを考えたのは、才能のある若手ガラス作家やデザイナーがガラスを生業の基礎にすることのできる環境を構築したかったから。
(アートではなくデザインするという意味で)ガラスをクラフトすることの意味や価値を理解する人を増やしたいという気持ちでfrescoをブランドとして立ち上げました。
デザインのインスピレーション元やこだわり等はりますか?
日本人の持つ、光に対する感受性や感覚に共鳴するものづくりを意識しています。
雲の隙間に差し込む光、霧に差し込む光線、霞の中に広がる光、水面に躍る光の反射など・・・それらは自然のなかにあり、また私たちの暮らしのなかにも取り入れられ、想起させます。
ただガラスは、その素材そのものが美しいが為作り手はその美しさに翻弄され、作品を取り入れる生活のなかでの在り方を見失いがちです。空間と物との関わりを大事にしたいです。
frescoの使用しているガラス原料と吹きガラスの技術について、詳しく教えて下さい
本意ではありませんがfrescoが使用しています原料はスウェーデン製の物です。遠く離れた国で出来た原料を高価な輸送費を投じて運ばれてくる物です。国産で、私たちの仕事に適した原料が無く、仕方なく使用しています。ただし、スウェーデンの原料自体は優良で、その品質に不満はありません。
ガラスの主たる成分は珪砂です。この珪砂にソーダ灰や石灰石などを調合して原料とされていますが、透明のガラスでも、その用途によって硬さや丈夫さを変えてあります。私たちが使用しているガラスは「工芸用」で、一般に流通している瓶などのガラスと似て非なる物なのです。
吹きガラスの技法については、この場では飽くまで基本のお話しになります。技法と捉えられるものは無数にありますので。
簡単に説明します。鉄の(正確にはステンレス)パイプをガラス溶解炉の中のガラスに差し込み、その先端に巻き取ってきます。丁度ハニーディッパーに蜂蜜を巻き取るような形です。
その柔らかいガラスは冷めると同時に、少しずつ硬さを増していきます。その硬さの変化に強弱をつけるため鉄板に転がしたり、水で濡らした新聞紙で触れたりします。
この作業の所々でパイプの逆の端から息を吹き込んでいきます。適度な大きさ(同時に本体の厚みも)になれば、そこから成形に移ります。成形には鉄の箸のような道具を使ったり、木の板なども道具となります。
形状にもよりますが、8割程度形が完成形に近づいたところで、今度は作品の本体の底になる部分に、別に用意した鉄の棒(パイプではない)の先端に少量のガラスを巻き取り、それを接着剤代わりに押し付けます。
次に作品の首の部分に小さな傷を入れ、パイプごと衝撃を与えて折るようにして作品を切り離します。
この後は、パイプから空気が通ってきた穴があり、その周辺を焼き、再度柔らかくしつつ広げて成形します。
簡単に説明するとこれで成形は完了です。できた作品は、室温のなかに放置しておくと温度差で割れてしまいます。最終的には窯に入れ、作品を翌日まで時間を掛けてゆっくりと冷ます工程が必要です。作品によっては、冷えた後に削る、磨くなどの工程も完成までに必要です。
辻野さんは元々ご自身の手で制作されていた作家さんですが、現在のような制作体制のブランドを始めた経緯や、一点ものと量産への考え方を教えて下さい。
現在も受注品やパーソナルワークは制作しています。展覧会などでしかお披露目していませんが年間に2〜300点程度作っています。
勿論スタッフがfrescoのプロダクトを制作しているのですが、それは所謂工場製手工業のように作業者を一箇所に集め、作る工程を分業で行うというものではありません。作家がそれぞれの工房で作品を作るように殆どの工程を担当の作り手が担い、完成させます。それは、作り手が自分の仕事に責任を持つということに他なりません。同時に作り手は「作業」という単純な動きから「仕事」をするという姿勢で取り組めると思っています。
殆どのスタッフがガラスを学ぶための学校を卒業しています。決して経済的ではありませんが、皆が在学中に学んだ技法をできるだけ忠実に実務に反映できるような仕組みを取り入れています。作家になり「自己の表現」をすることだけがガラスと関わる生き方ではないし、単純に人が作ることに没頭できることでしか生まれてこない物があります。それは量産品にはない魂のようなものだと信じています。
△辻野さんの作品
今後のブランドとしての展望をおしえてください。
クラフトのジャンルとしてのガラスはまだまだ駆け出しだと感じています。
長い間、手作りガラスは表現の媒体として扱われてきました。それ以前は量産品としてのガラスが生活の隅々にまでに及びました。大量に作られ、またリサイクルすれば簡単に再生する存在として理解されてきました。しかし、それは多くの人々が同じものを求めた時代に重宝された商品でした。
時代は多様化し、求められるものも様々です。そんなバラエティーに対応すべくコンセプトは維持しつつも新しいデザインにもしなやかに挑戦していきたいと思っています。ただし時代の趣味性に翻弄されるのではなく「ブレず固まらず」に、ですね。そしてもっと海外に日本のガラスを知ってもらうことに注力したいと考えています。