木工旋盤で幾何的な形をモチーフに燭台や花器を制作されている、作家の新見和也さんに5つの質問。
木という素材、旋盤の技術、新見さんの創作の源に迫ります。
なぜ木で作品を作るようになったのですか?
小さい時から手を動かしてつくる工作などは好きでしたが、いつしか言葉によるコミュニケーションや表現は苦手となっており、逃げるようにモノづくりをしているという面もあります(それは今にもつづいていますが)。
制作物に代えて自分で自分の存在を確かめたい、自分を理解してほしいという思いです。
制作することが自分に合った表現方法であり、いま自分にできる価値提供だとおもっています。(なので手を動かすという行為はある意味で落ち着くのです。)
なぜ木工をしているのかというと、はじまりは
・素材として、子供の頃に使えるものは木や紙が多かったゆえに自分には身近で慣れ親しんだ素材であり、そして基本的には手に近い素材だから。
・木工知識は、構造物・什器制作や日曜大工的なものなど、実用性が多そう。
・クラフト業界ではプレイヤーが(陶芸よりは)少ない
というような打算的(合理的)な考えだったとおもいます。
作品のインスピレーション元やこだわり等はありますか?
木の素材だからこそできる表現を意識することが多いです。
(陶芸にも大学のときから木工と同時に8年触れていました。その経験から、いわゆる陶芸と主に比較すると)
軟らか過ぎず硬過ぎずで、意図した繊細な形をつくれる。
窯で焼くなどで、手を離れずに確認しながら形をつくれる。
というような形の意思を反映しやすい作業性があります。
また、木目と節などの自然の表情があり、とても魅力的で美しいものに出会うこともあります。
そのような素材の特徴を、人工的にうまく切り取ったり活かせるものをつくりたいです。
インスピレーション元のモチーフは自然の表情を活かすという点ではシンプルな図形、また構造物・建築物などが多いかもしれません。
ジョルジョ・デ・キリコ*の絵画にあるような世界感(『ICO』というゲームのパッケージイラストから入りましたが)も作ってみたいです。
ジョルジョ・デ・キリコ* イタリアの形而上画家でシュルレアリスムに大きな影響を与えた画家
使用している木材と旋盤という技術について、あなたの考えを教えてください
木工の中でも、挽物(ろくろや旋盤で素材を回転させて加工したもの)は挽いたものが単体で成立したり、表現のメインとなるものが多いです。
家具などの設計図通りに加工を進めて複数のパーツを組立てるものに対して、大きく異なるジャンルに思えます。
それは、制約が少なく彫刻のように自由な感覚で削れるからです。(陶芸の電動ろくろによる造形と似ているかもしれません。)
木屑を浴びながら手道具よりはるかにダイナミックに、且つ繊細に形を変えていくこともできます。
手を動かして形を作るのが(そして細かい作業も)好きな自分にはとても合っています。
旋盤(ウッドターニング)体験できるところもありますので、興味のある方は調べてみてください。
使用している木材については小物制作で、比較的制限が少ないことから、働いている工房の端材をもらったりもしますが、普通に材木屋で端材も含めて買うことが多いです。
樹を切っただけの生木の状態では水分を多く含むため、材料としては基本的に乾燥させることが必要となります(挽物屋さんでも塊や荒削りしたもの積み上げて乾燥させていますよね)。
※生木を削るグリーンウッドワークというものもあります。
自分は既にある程度以上乾燥した材料を入手しますが、時間やスペースがあればその乾燥材に至るまでも自分で関われるといいなと思うこともあります。現状においては加工する方に力をいれています。
制作環境、アトリエについて教えてください
現在は、木工職人のアシスタントをしながら制作活動を行なっています。その方の工房を制作環境として使わせてもらうだけではなく、加工を学んだり、作品発表の場も頂いたりと、非常にありがたいことです。
職人でありデザイナーとして今後の展望を教えてください
基本的に制作の出発点は自分のための行為です。誰かではない自分を認めるために。そして、素材を使った表現としてあまり見たことない見せ方や組み合わせをしたい。新たな開拓をしていく一人でもありたい。その過程に、職人としての技術の向上が必要だし、自分の作品に興味を持っていただく方の存在がデザイナーとしての目線を育んでくれるとおもいます。
自分で愛着がもてるものを作っていけたら。それが他の方にも愛着をもってもらえるものであれば、なお良いですね。
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