広島県の里山にある集落で日々自然と向き合う暮らしをされている革作家の太田一永さん。日々季節の移ろいを作品に染め移していると言う彼の作品が生まれる里山での生活や、作品制作の原点を解き明かす5つの質問にお答え頂きました。
1.革での制作や植物染色をはじめたきっかけを教えて下さい。
高校生の頃に鞄や服を見よう見まねで作ったものを着用して登校していました。鞄の方が自由度が高かったので、製作にのめり込んでいき、布素材では飽き足らず革も使い始めました。
革は厚みや硬さなど、どうすればいいのか全く分からなかったので、神戸の小さな工房で修行させてもらった事がスタートです。
のちにイタリアの工房や大阪の鞄メーカーでお世話になり、鞄作りの工程を一通りを覚えました。
草木染めは2015年に自然あふれる山里へ居を移し、植物の生命力の強さにびっくりして何か製作に活用できないかと栗のイガを煮出してみたのがきっかけです。
季節の植物で模様を描くのは、長女がオシロイバナという花で色水遊びをしていたのを見て思いつきました。
2.作品のインスピレーション元や制作へのこだわりはありますか?ものづくりについての思いをお聞かせください。
素材がインスピレーションです。
革が染め上がった時の表情が本当に綺麗で、それをどうすれば日常的に使えるものにできるか柄の入れ方や傷跡の活かし方など何度も試行錯誤しながら製作しています。
実際の形はいつも頭の上にぼんやり浮かんでいるものを引っ張ってきて試作します。
模様をつけるのに季節の植物を使う場合、一年のうち作ることができる期間が限られなかなかスピード感のあるものづくりとはいきませんが、それも自然の流れの速度。毎年積み重ねていければ。
模様染めに使う藍やいろんな花の種を取り、次の年にまた芽出しして繋いでいくことも楽しみの一つです。
そういった環境だからこそできるものづくりでありたいと思っています。
3.今まで豚革を使用していて鹿革は最近になって使い出したとお伺いしましたが、革という素材そのものや革を使ったものづくりについて、どの様な考えをお持ちですか?
今までは山羊の革を使用していました。色々試した中で一番染料の入りがよかったからです。
コロナが始まり、素材の調達に不安を覚えたことで、国内の獣害駆除される動物の革に目を向けました。草木染めとの相性もとても良かったので現在主たる素材として使用しています。
一般的に出回っている革は食肉の副産物ですが、とはいえやはり元は生き物の一部、できるだけ無駄なく使うことを心がけています。
厚さを調節した時に出る床革も一般的には捨ててしまうことが多いですが、なるべく製作に使います。
特に今扱っている鹿や猪の革は、それぞれの個体が生きてきた跡が如実に残り、今では慣れましたが初めて革を広げた時は革包丁を入れるのに躊躇してしまいました。
散弾銃の穴や、藪に突っ込んだりして傷の多い肩部分などそれぞれの部位の特徴を生かし素材の命を使い切れればと思います。
4.山の上の集落ではどの様な暮らしをされていますか?
世帯数が100に満たない小さな集落ですが、小学校、中学校も残っているため何かと地域の行事も多く日々忙しく暮らしています。
今年はほとんどできませんでしたが、畑もやりつつ。
ふとした時に目にうつる景色や、冬の寒さなど
自然の優しさと厳しさ両面を感じる毎日です。
5.今後どんなものをつくりたいですか?新しくチャレンジしたいこと等があれば教えてください。
今は日常使いの道具がほとんどですが、もう少しアートに寄せたものが作りたいです。
photo by 太田一永
季節の中で太田さん自身が気がついた小さな美しいものを集めた絵日記を覗いているような、そんなわくわくと温かい気持ちにさせてくれる太田さんの作品。
お話を聞いて太田さんの生活をより身近に感じることができました。
太田一永さん、ありがとうございました。